たまたま見聞録

脱初心者への道
30km/h巡航

これはいかした自転車乗りになりたいサラリーマンや主婦のための指南書です。猛暑の日中でも、寒風の向かい風でも、どんなときでも涼しい顔ですいすい走るスマートなサイクリストになりたいな・・・しんどい練習は嫌だけど。と思っている人のために書きました。週一練習で、つらい思いをせずに30km/h巡航できるようになるのがゴールです。

○迷走しないために

境川

私は日曜日にサイクリングロードに行きます。相模湾へ流れ込む境川に作られた道です。境川だけでも5万キロほどは走ったでしょう。近ごろはロードバイクがブームで、たくさんの自転車乗りに出会います。
みなさんレーパン、ジャージにヘルメット、ビンディング付きの高価な自転車でビシっと決まってるのに、いい走りをしている人は滅多にいません。
ゴルフやテニスならボールの飛び方で間違っていることがわかりますが、自転車では間違いの自覚ができません。自覚できても修正は困難です。
問題は情報にもあります。向上心をもって走り方を研究しようにもド素人向けのまともな指南書がないことに気づきました。ネットに転がっているノウハウは誤解・思い込み・妄想・ミスリードばかりです。プロのアドバイスは雲の上のことばかりです。いずれに接しても初級者は迷走するだけでしょう。

○30km/h巡航とは?

「初級者の壁は30km/h巡航」という話を小耳にはさんだのは10年ぐらい前だったでしょうか。そのときは「たしかに30km/hペースで丸一日走れるなら相当の腕だ」と思いました。
還暦間近になり体の衰えをはっきりと自覚するようになって、その壁にトライしてみる気になりました。
ちなみに私が30km/h巡航というのは平坦無風の状態で、もっとも快走感のある速度が30km/hという意味です。交通状況がよく路面に気を使う心配がなく空を飛ぶように顔に風を受け「この調子なら1日走ってられるぜ」というとき速度計を見れば30km/hだった…という感じです。気張ってペダルを踏んで「絶対30km/hから落とさなねえ」などとがんばっている状態を巡航とは言いません。


自転車の準備------------


脱初心者のためにはまず自転車の特性を知り、使いこなす必要があります。

○自転車の特性

自転車は人類の大発明です。てこ、歯車、車輪といった力学の基礎原理を巧妙に応用しています。2輪で走れることに着目できただけでも奇跡的創造物だと思いますが、さらに驚くべき特性があります。自重で動くことです。自転車はライダーの体重をエネルギーにして車輪を回して進む乗り物なのです。私は自重で進むことができるものを自転車以外に知りません。鳥だって魚だって無理でしょう。まさに人智の結晶なのです。
その特性を最大限に利用するのが私の30km/h巡航です。体の重量をうまく推進力に変えることで驚くほど楽に走れます。

 

○自転車の選択

ナカガワ

30km/h程度の速度域では重量や材質の影響はありません。いわゆるママチャリではギア比の制約で難しいのですが、5万円のクロスバイクに運動靴でもいいスピードで走れます。しかし高価な機材を使えばモチベーションは上がります。
最適なのはカーボンフレームの高級ロードです。できるだけ楽に速く走れる自転車を使うのが当座の近道だからです。ホイールなどの走行抵抗、フレームの剛性しなりはそれと気づかなくても速度に影響します。
ロードの一番の特徴としてビンディングペダルがあります。その安全性、快適性を思えばビンディングはディレーラー以降最大の発明品ではないでしょうか。ロードには下ハンというアドバンテージもあります。
おそらく50万円のロードと5万円のクロスバイクでは30km/h巡航時でも時速で0.5km〜1kmぐらいの差がついてしまうでしょう。数字は小さくても実際に並んでみると絶望的な大差です。いい自転車は同じ速度でも上手に走っている気になれますし、どんどんスピードアップできるかのような錯覚も味わえます。「努力を続ける」ためにはそういう感覚があんがい効果的なものです。

○自転車以外に必要なもの

自転車以外に必要なものは特にありません。速度計だけは必要です。30km/hで走っていることを確認するためです。ケイデンス計とか心拍計、パワーメーターなどハイテク装置はなくてもかまいませんがあると楽しいものです。衣服その他は他所の指南書を参考にしてください。自転車以外のグッズについては壊滅的に誤った情報を目にしたことはありません。


自転車の調整---------


自転車の調整は大切です。とりわけ「ル」で終わるパーツの調整は常に意識しておく必要があります。サドル、ハンドル、ペダルの3つです。

○サドルの高さ角度

サドルの高さ角度、前後位置の調整は自転車セッティングのキモです。これが決まらないと何をどう(50万円のカーボンホイールに換えてみるとか)やっても無駄になります。調整法は他の指南書を参考にしていただくとして、30km/h巡航は、サドルは「前寄り低く」からはじめましょう。下ハンを持って脚の裏のほうがつっぱったり、背中や腰がしんどい場合はサドルを下げるだけで解決することがあります。低いサドルでは力が入らないと感じることになるかもしれませんが、それでもかまいません。30km/h巡航には力が不要だからです。

○ハンドルの高さ距離

ハンドルバーのフィッティングは、サドルやペダルに比べるとかなりいいかげんでもかまわないようです。
下ハンで走って背中が自然に伸ばせる所にハンドルを置きましょう。その昔、ハンドルバーまでの距離は「サドルの先端に肘を当てて手を伸ばし3センチぐらい届かない。高さはサドルより5センチほど低く」と習いました。それでいいように思います。
私は境川を走っていて初心者のみなさんのハンドルが高すぎるような気がしてなりません。前傾姿勢がつらいと感じる場合は、ハンドルのポジションよりも、柔軟性よりも、力の入れ方に問題があると思います。

○ペダルのどこを踏むか

すでにビンディングペダルを使いこなしている人はそのままでかまいません。足の幅の一番広い所がペダルの軸に沿うようになっていると思います。これはとっても重要なポイントです。踏む場所をまちがって、しかも踏みつけるようなペダリングをしていると、たいしたスピードも出せないのに足首や膝が故障する恐れがあります。もし体重がうまく乗らないなと感じる場合は、クリートを踵寄りに調整すると改善できる場合があります。
ビンディングを使ってなくて土踏まずがペダルに乗っている人は修正しましょう。かっこ悪いです。




基礎練習------


○脚の重さで走る

30km/h巡航をめざして基礎練習を始めましょう。最初の目標はただ一つ、脚の重量だけで走ることです。ギアは軽いものでかまいません。最初は2倍ぐらいが適当でしょう。フロントは小さい方のギアを使いましょう。初心者向けのロードではフロントインナー34Tが主流だと思います。2倍なら後ろはギア17T、きっと真ん中あたりです。短時間なら90rpm、時速22〜23kmで走れます。
90rpmぐらいの高ケイデンスで走るこつは、ペダルを踏まないことです。ポイントは、足が後ろにあるときに、足腰を折りたたんで持ち上げ、足が一番上に来たとき全ての力を抜いて地球の重力のままに落とすことです。落ちる前足を上がる後ろ足がじゃまするとうまくいきません。ときどきチェックしましょう。この練習を続ければ、自転車向きの持久力もアップします。90rpmでも息があがらず普通に話ができるなら第一目標達成とみていいと思います。

○上半身の重量もプラスする

脚の重量で走るコツがつかめたら、上半身の重量を加えて走ってみましょう。コツはただ一つハンドルを突っ張らないことだけです。

脚の重さを使って90rpm以上の高ケイデンスで走るときは、ハンドルを突っ張ってサドルにどかっと座っているはずです。上体の体重は全くペダルにかかっていません。走りながらハンドルを持つ手をゆるめると、体が前に倒れます。倒れないようにするために、前足で踏ん張ります。ギアが2倍程度だと、ペダルが軽くて踏ん張れません。ギアを2.5〜3.0倍ぐらいに上げると、前足の踏ん張りが効くようになります。この踏ん張りがそのまま推進力に変わります。

ペダルを回すときに、筋力で加速度をかけて回すよりも、体重をかけて踏ん張るほうがずっと楽です。

ペダルにかけられる重量は各ライダーの身長体重の固有値ですが、フォームによって重量が変わります。前傾を深くして上半身の重心を前に移すほど、ペダルにかかる上半身の重量は大きくなります。

踏み込み時に上半身の体重を乗せる目安感は、ハンドル:ペダル:サドル=0:2:1だと思います。巡航時の平均は、ハンドル:ペダル:サドル=1:10:10ぐらいでしょうか。
練習のコツはとにかくハンドルを突っ張らないことです。ペダルの回転に応じて、ハンドルを持つ手にどれぐらいの重量がかかっているかを意識します。特に踏み込みの瞬間はハンドル0kg重になるようがんばりましょう。

必要なバランス感覚や筋力は乗ってるうちについてきます。この乗り方が板につくと、おしりの痛みも起きません。手尻の痛みがなくなり長時間のライドが楽になります。じつは、ハンドルを突っ張らなければ、サドルにかかる重量が減るんです。
腕が上がれば下ハンを持って80rpm、25km/h程度で楽々巡航できるでしょう。自転車を健康とかフィットネスの道具として利用するのなら、次の段階に進む必要はありません。数年後には、のんびりサイクリングで半日100kmをこなし、腹から下がきゅっと締まったセクシーな体が手に入ると思います。





30km/hをめざしましょう---------


基本練習では、上げた脚の重量と、倒れる上半身を支える力でメダルを押しました。30km/hでも体重を利用することは同じです。変わるところは、腕から肩、背中、腰、足まで全身をつかって、最大限に体重を前足に乗せることです。

○ギアは3倍

リアディレーラー

自転車はギア比とケイデンスでスピードが決まります。重いギアを速く回した者の勝ちです。重いギアをゆっくり回したい人、軽いギアを速く回したい人、いろいろいるかもしれませんが、30km/h巡航ではギアは3倍が適当です。フロントアウターが50Tならばリアは17T。48Tならば16Tです。


○ケイデンスは80rpm

ケイデンスは80rpmです。1分間に80回クランクを回します。ケイデンス計がなくても速度計があればケイデンスの計算はできます。700cのロードでは80rpmのときギア比を10倍すれば速度になります。3倍のギアを使っていれば時速30km、2.5倍だと時速25kmです。


フォーム----------


フォームは下ハンが一番です。その最大の理由は、上半身の重心を前方に位置させることでペダルに体重を乗せやすくできるからです。ドロップハンドルは手前の方を握ります。奥の方を握って腕力で引っ張るのは全力スプリントのときです。リラックス走行の下ハンは手前を握って腕は伸ばし気味です。

○姿勢

下ハンは背中を曲げるのではなく、股関節から倒します。顔を上げて肩を落とし胸を起こします。外人の肩すくめポーズのようになるとダメです。頭を下げて背中を丸めるとすぐにしんどくなります。下ハンなのに上体が垂直になっていると錯覚するぐらいでちょうどいいものです。
とにかく背中が縮こまってしまわないよう心掛けましょう。無理に反ることはありませんが、丸まって緊張するのは最悪です。背中がしなやかなライダーを見ると「こいつ、強いな!」と思います。

○座り方

サドル上は恥骨と坐骨の3点で座ります。状況に応じてこの3点にかかる体重の割合を変えます。上ハンで体を立てるときは後ろの坐骨寄りに、下ハンでは恥骨寄りになります。
「仙骨を立てるべし」という指導がされることがありますが、私にはその意味がわかりません。腹を引いて腰を立てればペダルを強く踏めます。でもそれが続くのは数回です。無理に腰を立てれば体全体に余計な負荷がかかり息が苦しくなってペダリングどころではなくなってしまいます。
私は30km/h巡航するとき「腰はあえて倒して恥骨で座る」ことを意識します。体全体を折りたたむ感じです。下腹は上がってきた太ももが軽く触れるぐらい突き出し気味にします。
プロのレースをテレビで見ていると、確かに仙骨が立っているように見える選手が大勢います。でも、背中が曲がって腹と太ももが大きく開いている選手は全くいません。そういう奇妙な格好の選手を見たい人は、アニメの弱虫ペダルを見ましょう。私は大好きで漫画もアニメも繰り返し見ています。


力の使い方--------


基本練習ではサドルにどっかり座って膝を上げ下げして走ります。そのことは一旦忘れてください。「膝の上げ下げ」に意識が向いているうちは上半身の体重は使えません。膝を忘れ、腰を使って太ももを前に出しながら上げます。もちろん膝は上がっていて見た目に違いはありません。しかし、走る感覚が全然違います。

○膝を使わない

「30km/h巡航程度なら太もも以下の筋力は支え」と体に叩き込みましょう。前足の大腿筋に負荷がかかっているようだと長続きしません。

体育会系の健脚自慢に多いのですが、大腿筋を使って膝を伸ばす力でペダルを踏むと、30km/h程度の速度でも膝が左右に振れてしまいます。膝に力が入っているペダリングは疲れるばかりで故障の原因にもなりかねません。
前太ももの筋肉は膝を伸ばすためのものです。もも裏ハムストリングは膝を曲げるためのものです。ふくらはぎは足を伸ばすためのものです。膝も足も大きく動き、それらを動かすことははっきり意識できます。そのため、太ももやふくらはぎの筋肉を使って自転車を走らせていると錯覚します。実際に働いている筋肉は腰回りにあって使っていることが自覚できないほど強力なのです。

30km/h巡航は、ももの上げ下げに使う腰回りのパワーを持続可能なレベルで使う技です。

○足運び

膝はまっすぐ上げてまっすぐ降ろすのが基本です。膝がトップチューブに触れるぐらいすぼめるペダリングでは太もも内側付け根に余計な負荷がかかります。くるぶしを使うペダリングもおすすめできません。30km/h巡航では、ふくらはぎの負荷を軽くできるよう足は水平を意識するのがいいのではないでしょうか。水平と思っていても後ろ足の踵は上がっているものです。

○体重を使うイメージ

体重をペダルにかけるのはそれなりに難しいテクです。ただ、うまくいってることを確かめることは簡単です。サドルとハンドルと後ろ足に体重がかかっていなければ、全体重は落下するペダルにかかっています。上体重がペダルにかかる割合ができるだけ高くなる状態を一瞬だけ作り出せばよいのです。

○圧力ポイント

ペダルが上死点にあるときに足で軽く踏んで尻の筋肉半分だけ浮かせます。そのまま上死点を過ぎたペダルに体重をかけます。その時間は0.1秒ぐらいです。ライダーの重心はへその先にあります。それをできる限り前足のペダルに乗せることをイメージします。右ペダルが上死点にあるとき、前輪を右に向けて自転車を少し右に倒すといいかもしれません。一番前に来たペダルが頭の真下になるイメージです。

○脱力ポイント

ペダルに最も推進力がかかるときに全力で脱力を意識します。一番前にあるペダルを踏みたいところですが、あえて重量だけをエネルギーにします。ペダルを押し下げなくても体重だけで30km/hで進むことは可能です。上手な脱力は耐久力アップの奥義です。
下死点の直前ではしっかりサドルに座ります。ペダルが上死点を通過するときに、サドルにかかる体重を少なくして、前足に体重をかけます。下死点のペダルに体重が乗ったままだと脚を上げるタイミングが遅れ、後手後手のペダリングになってしまいます。下死点にあるペダルにかかる重量は0kg重と意識しましょう。

○腕でリズムをとります

下死点を通過して後足が上がりペダルが水平になるあたりで腕を意識します。左足が上死点に向かうとき、体は足腰の動きに合わせて前に移動します。そのとき左手でハンドルを押すと、カウンターになって前方に向かう体が上に動きます。そのタイミングで上死点にあるペダルを踏むと上体を楽に浮かせることができます。上死点を過ぎると速やかに腕と脚の力を抜いて体重でペダルを落とします。
腕と下半身の連動イメージは距離スキーのストック、登山のピッケル、トレッキングポールに似ています。
ハンドルを押し引きするタイミングとリズムを掴むのはけっこう難しいと思いますが、これができると走りに軽快感が出て楽しさが50%アップします。ハンドルの押し引きは上ハンやブラケットでもできますが、一番やりやすいのは下ハンです。

○目標は50%

ペダルにかかる重量は体重の50%は欲しいところです。ビールマンスピンとかシライグエンみたいな無理難題ではありませんので、その気でやれば誰でもできます。20%でも10%でも5%でもかまいません。3倍のギアで難しいときは、2.5倍、80rpmぐらいで上半身の体重をかけるところに戻って練習するのがいいでしょう。
ハンドルを支える手の感触で、上半身の重量がどれぐらいペダルにかかっているか計れるようになれば、それだけでも初級者卒業です。


実走行練習-----------


かる〜く30km/h巡航ができるようになると真夏の暑さも堪えません。日差しがあっても気温が体温以下なら、30km/hの風で空冷できます。幸い境川は湘南のいい海風が入ることもあり境川でうだった経験は皆無です。

○負荷は小さい

準備運動とかストレッチとかウォーミングアップとかめんどうなことはいりません。行きがウォーミングアップで帰りがクールダウンと思っていて間違いありません。自転車はすぐれたフィットネスマシーンです。体にかかる負荷は早足で歩く程度です。脚腰の負担は速歩のほうがずっと大きいと思います。
休憩は15〜20分ごとに30秒ほどとっています。自転車を止めて足をつき水を飲み、先の15分の反省と次の15分の狙いを確認します。体力増強、速度アップは気にせず、技術面に集中して「いい感じ」をMAXにすることだけを考えています。

○道選び

できるだけブレーキもハンドルも無用で長時間走れる平坦な道を見つけて下さい。
私がこれまでこの練習に最適だと感じたのは茨城県の霞ヶ浦でした。100kmの全周にわたりいい感じにサイクリングロードが整備されています。連続して30分ぐらいは気兼ねなく走ることができそうです。
神奈川県には5分も10分も30km/hですいすい走れる平坦道はありません。134号線は信号が合えば3分ぐらいは走れます。小田原厚木道路の側道はもっと行けます。ですが、そういう道路は脇を自動車が高速で通過しますから初級者には恐ろしい場所だと思います。
境川サイクリングロードは両側に延々張られた鉄のフェンスで人の飛び込みが防がれています。見通しもあり屋外ローラー台としてかなりいけてます。札幌の豊平川、埼玉の荒川、東京の多摩川にも引けをとりません。ただし散歩道にもなってます。歩行者や一般の自転車を威圧しかねません。30km/h程度でも自転車を知らない人の目には激走しているように見えるものです。境川は人がいない雨の日がねらい目です。気兼ねなく3分の巡航練習が可能です。

Goproというビデオカメラを買ったので調子に乗って境川で撮影してきました。境川での30km/h巡航練習はこんな感じです。

○平均速度

30km/h巡航といっても、走行平均速度が30km/hというわけではありません。一般道をそんな速度で走るのは自殺行為です。
その昔、一度だけ一般道で平均速度が30km/hを越えたことがありました。渋谷-世田谷の8km足らずを自転車通勤していたときです。自転車はチューブラーのロードで、ジーパンに運動靴です。あのときはがむしゃらにストップ&ゴーを繰り返す全開走りでした。東大駒場の登りは全部ダンシング。加減速していないとき速度計は45km/hから落ちることがありません。夜明け前で自動車はまだライトをつけ淡島通りの信号機は黄色点滅が多い時間帯でした。
もし日中の淡島通り、世田谷通りで同じく平均速度32km/hを記録しようと思えば、トップスピードは60km/h以上が必要になるでしょう。
今ではそんな無茶は考えられません。連続徹夜の意識朦朧か若気の至りだったのでしょう。私が実走行時間4時間ほどの30km/h巡航練習をしたとき、普通の道路なら平均速度は20km/h以下、境川サイクリングロードだと25km/h程度です。風の強いときに境川を往復練習すれば平均速度はもっと下がります。サイクルコンピュータの平均速度に一喜一憂することは無用かと思います。

○ギアチェンジ

道路には風が吹きます。風は自転車にとってくせ者で、風に応じてギアを変える練習をしなければなりません。河川のサイクリングロードだと時速15kmぐらいの風が吹いているのが常です。止まっていて顔に風圧を感じ、道端の草がなびくぐらいの風です。その程度の向かい風でも3倍のギアで80rpmを維持すると体感で2倍のパワーが必要で、負荷は峠練習並になってしまいます。30km/h巡航の向かい風では、ケイデンスを落とすかギアを落とすかして負荷を調整します。

○ギアの意味

シフトレバー

前足にかかる体重を太ももで支えているなら失敗です。太ももに負担がかかって「これじゃ、半日もたない」と感じる場合はギアを落としてペダルを軽くする必要があります。逆にすこんすこんペダルが落ちるようだと、ギアを上げます。

自転車のギアはトルクとケイデンスを一定にして速度を変えるためにあります。境川ではたかが5秒の発進加速時とか橋を越える5mの坂でギアチェンジをしている人をよく見ますが、あれはこっけいです。自転車のエンジン(人間)は容易にトルクを変えられるようにできています。発進加速時のシフトアップには機材の寿命を縮める以外の効果はありません。風が同じならシフトレバーに触る必要はありません。

川沿いの向かい風シチュエーションでは、フロント50Tならばリア21Tか23Tぐらいになるでしょうか。それで80rpmを維持します。速度は23km/hほどに落ちます。23km/hでも30km/巡航をやってることに変わりありません。初級者用のロードには最低で1.5倍程度のギアはついているはずですから、風でギアが足りなくなる心配はありません。
実は風にあったギアを選択するのは高等テクニックです。最初は3倍のギアでケイデンスを落とすほうが良い練習になるかもしれません。いずれ上級に進むにはケイデンスとギアシフトと両方のテクをマスターする必要はあります。

ちなみに30km/h巡航達成という目標に「風圧の壁」はありません。入門用アルミロードで30km/h巡航できない人がカーボンディープリム装着の100万円エアロロードで走っても状況は打開できません。空力のいいプロ仕様の自転車で走れば速くなるのは当然ですが、27km/hが27.05km/hになる程度でしょう。
30km/h程度で風がきついと感じたらそれは向かい風です。走行時の風向きがすぐにわかれば初心者卒業です。



理論の裏付け--------


重力ペダリングが上達してくると、力以上に自転車が進む感覚があってたいへん気持ちがいいものです。いま流行の電動アシストを得たようなものです。
進む速度は筋力にも持久力にもかかわりません。この方法で走る限りツールを走っているプロと並ぶことができます。脚と体を持ち上げる持久力および重量の何パーセントを進む力に変えられるかで差はでますが、身体の位置エネルギーを開放するだけですから理論上は誰もが同速です。

○80rpmの理由

体を自由落下させるエネルギーだけで自転車を進める場合、もっとも効率がよいのが80rpmです。ケイデンスが低いとスムーズにペダルが落ちる感じがしません。高いと上半身の重さがしっかりかかりません。
クランク長170mmならば、80rpm巡航時のペダルの速度は1.3m/sです。ペダルが一番前にあるとき、ペダルは1.3m/sで落下しています。上死点から脚を自由落下させると、170mm落ちたときの足の速度は1.8m/sになります。単純に考えて1.3m/sと1.8m/sの差が靴底に感じる圧力です。その圧力が自転車内と地面と空気の摩擦に抗って速度を維持する力になります。
もし体重だけで自転車が進むのなら、理屈の上では大きなギアを60rpmで回しても同速です。ならばそのほうが楽なはずです。しかし、実際に試してみるとそうなってはくれません。ケイデンスが小さいとそれだけ体重を足で支える時間が長くなります。しかもニュートンの反作用の法則通りに体重を支える脚力も必要になり、ふくらはぎや太もも前にある筋肉に効いてきます。10回ぐらいならいいのですが、120回もやると筋肉がもたなくなります。
また、ケイデンスが100rpmを越えるようになると、ペダルが一番前にあるとき、足よりもペダルの方が速く落ちてしまいます。そうなるとペダルが下死点付近に行ってから体重がかかり、位置エネルギーは自転車を歪める力になってしまいます。高回転時にも効果的に体重を使おうとするなら、ケイデンスが高くなればなるほど体重をかけるポイントを早く時間は短くしなければなりません。ペダルの落下速度とのかねあいでそうなります。私にはできない上級レベルの技でしょう。
超高速ペダリングの推進力は筋力だよりで重力は補助です。ちゃんとしたトレーニングを積んではじめて使える技です。

○3倍の理由

重力走行の最適ケイデンスを80rpmとして、最高効率最速になるギアを探って行きます。小さいギア比だとせっかくの体重を活かしきれずスピードに乗れません。重いギアだと80rpmにするためにはより長く体重をかける必要があります。かける時間にも限度があり、大きなギアを選ぶと体の重量だけでは80rpmを維持できません。私の場合、52×16Tではケイデンスが70rpmぐらいにしかならず速度も落ちてしまいます。
80rpmで走っているときに最適なギア比になっているかどうかは、足裏にかかる負荷で見ることもできます。試しに80rpmで歩いてみましょう。歩行のときは足裏に全体重がかかるだけでなくほんの少しですが体を持ち上げています。歩行時に足裏で感じる負荷は、自転車よりもずっと大きいのです。自転車はペダルを落とす運動ですから、足で体重を支える必要はありません。30km/h巡航では足裏がペダルを押す感じはほとんどないはずです。ペダルが上死点を通過する一瞬だけ足裏に圧力を感じます。
私は80rpmギア比3倍で足裏に圧力を感じたときは黄色信号だと思っています。別の練習に入っています。ちなみに太ももにまで緊張があれば赤信号です。3分後に力尽きます。そうやってがんばるのが境川名物の向かい風練習です。


ネクストステージへ--------


ホビーサイクリストでも、もっと速く走り次のステージに上がりたくなるのが人情でしょう。風と勝負したい。32km/hで抜かれたおじいさんを抜き返したい。斜度7%で5kmの登りを25分でクリアーしたい。というような思いに駆られるのは自転車乗りの性です。
残念ながら30km/h巡航のやり方ではスピードアップは望めません。物理的限界値なのだからしょうがありません。次のステージに進みたい人は筋肉でペダルを押し引きする「回すペダリング」の練習を始めなければなりません。じつはそのステージのことは私にはわかりません。選手の体感を想像することができないのです。ラルプデュエズの登りを24km/hで駆け抜けるなんて考えられません。私にできるのは30km/h巡航に毛を生やすぐらいのことです。
ひとまず参考までに気づいていることをお知らせします。

○無の力を動員する

スピードアップにはケイデンスを上げることがあります。3倍のギアで踏み込んで90rpmにすれば、33km/hにできます。じつは解説を続けながら内緒にしていたことがあります。重力を強調しながらも、本当は無意識に筋力でペダルを押しているはずだと気づいているのです。その力というのは太ももを下げる力で、力の源は臀筋です。
もし「太ももを下げる力を使います」というアドバイスを受ければ、初級者は太ももに力を入れてペダルを押すのではないでしょうか。太もも前にある大腿筋は膝を伸ばす筋肉です。まずいことにペダルが前の方にあるとき膝を伸ばすと、ペダリングのブレーキになります。前足の膝を伸ばすと頑張っている感じがあり練習の満足感はありますが、実効出力はありません。下手なペダリングでは膝やくるぶしが故障して自転車が嫌いになるかもしれません。
太ももを下げる筋肉は尻にあります。脚を上げる筋肉同様にとても強力で使っていることを意識することさえ難しい無の力です。この力は重力走法と相反しません。

○ビンディングペダル

いずれ一般の自転車では限界がありますので、足をペダルに固定して「回すペダリング」ができるビンディングペダルを使うことになります。膝を伸ばす力を使うにはビンディングペダルが必須です。最初は足を固定することが恐いかもしれませんが、慣れればフラットペダルのほうがかえって危険なんじゃないかと感じます。ビンディングペダルには初心者向きの容易に着脱できるものもあります。

○下腹を意識してみる

ビンディングペダル使用の自転車で33km/hで走るために、大事なのが尻の筋肉です。臀筋を意識的に使うには、まず腰回りを安定させなければなりません。
下腹をふくらませる感じでぐっと力を入れてみます。そこに力を入れても自転車の推進力にはなりません。しかし、腰全体が安定して確実に太ももを下げてペダルを下げられるようになります。左右の尻でサドルを踏んで骨盤直結のペダルを引きずり回すイメージです。

○足を前後に運ぶテクを磨く

足を前後に運ぶのは膝を曲げ伸ばしする太ももの筋肉です。ペダルの上死点通過時に膝を伸ばして足を前に運びます。下死点では膝を曲げて足を後ろに引きます。それだけだとすぐに疲れて長続きしません。
腰を安定させることができたら、腰回りの力をペダルを前後に運ぶことに生かしてみましょう。有効なのは腰のひねりです。ペダルの下死点通過時に腰を後ろにひねりながら足を上げていく感じです。腰のひねりは反対側で足を前に運ぶ力になっています。
次のステージに進むときは腰回りで踏み込みながら回す練習をやってみましょう。

○ただいま練習中

このたび「回すペダリング」でも手軽に体重かけができそうなヒントを得ました。
上半身の体重をかけるには、ペダルを踏む反作用でサドルから腰を浮かせる必要があります。私の30km/h巡航はできるだけ筋力を使わないよう、上死点でペダルを踏む技です。
その逆で、下死点で踏み込めばもっと素直に上体を浮かすことができます。ただし下死点の踏み込みはエネルギーロスが大きいものです。ロスを最小限にできるのが「体側で踏み込むペダリング」です。少しずつできるようになって、これかっ!という気づきがありました。
「体側で踏み込むペダリング」では自転車が左右に振れます。踏み込み足のほうにハンドルを切って自転車を傾けるのですが、その傾きによって上半身の体重がペダルに乗る感触がありました。
右足が上死点にあるとき、サドルが右に傾くと、右の座骨がサドルから少し浮きます。恥骨と左座骨はサドルに乗っているので体全体が浮いている感じではないのですが、右座骨が浮けば右足のペダルに体重が乗る感触があります。「体側で踏み込むペダリング」ならエネルギーロスが少なく、脚へのダメージも小さいようです。

30km/h巡航とは真逆の方法ですが「体側で踏み込むペダリング」ならクランク1回転で使える全ての力をいっぺんに動員して自転車を進めることができるのではないか? 登りを平坦と同じ感触で走れるのではないか? これこそ最速理論じゃないのか? と練習しているところです。(2022年8月追記)



回すペダリング
壺神山 IoT ride
30km/h巡航
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