たまたま見聞録

脱初心者への道
30km/h巡航

これはいかした自転車乗りになりたいサラリーマンや主婦のための指南書です。猛暑の日中でも、寒風の向かい風でも、どんなときでも涼しい顔ですいすい走るスマートなサイクリストになりたいな・・・しんどい練習は嫌だけど。と思っている人のために書きました。週一練習で、つらい思いをせずに30km/h巡航できるようになるのがゴールです。

○迷走しないために

境川

私は日曜日にサイクリングロードに行きます。相模湾へ流れ込む境川に作られた道です。境川だけでも5万キロほどは走ったでしょう。近ごろはロードバイクがブームで、たくさんの自転車乗りに出会います。
みなさんレーパン、ジャージにヘルメット、ビンディング付きの高価な自転車でビシっと決まってるのに、いい走りをしている人は滅多にいません。
ゴルフやテニスならボールの飛び方で間違っていることがわかりますが、自転車では間違いの自覚ができません。自覚できても修正は困難です。
問題は情報にもあります。向上心をもって走り方を研究しようにもド素人向けのまともな指南書がないことに気づきました。ネットに転がっているノウハウは誤解・思い込み・妄想・ミスリードばかりです。プロのアドバイスは雲の上のことばかりです。いずれに接しても初級者は迷走するだけでしょう。

○30km/h巡航とは?

「初級者の壁は30km/h巡航」という話を小耳にはさんだのは10年ぐらい前だったでしょうか。そのときは「たしかに30km/hペースで丸一日走れるなら相当の腕だ」と思いました。
還暦間近になり体の衰えをはっきりと自覚するようになって、その壁にトライしてみる気になりました。
ちなみに私が30km/h巡航というのは平坦無風の状態で、もっとも快走感のある速度が30km/hという意味です。交通状況がよく路面に気を使う心配がなく空を飛ぶように顔に風を受け「この調子なら1日走ってられるぜ」というとき速度計を見れば30km/hだった…という感じです。気張ってペダルを踏んで「絶対30km/hから落とさなねえ」などとがんばっている状態を巡航とは言いません。


自転車の準備------------


脱初心者のためにはまず自転車の特性を知り、使いこなす必要があります。

○自転車の特性

自転車は人類の大発明です。てこ、歯車、車輪といった力学の基礎原理を巧妙に応用しています。2輪で走れることに着目できただけでも奇跡的創造物だと思いますが、さらに驚くべき特性があります。自重で動くことです。自転車はライダーの体重をエネルギーにして車輪を回して進む乗り物なのです。私は自重で進むことができるものを自転車以外に知りません。鳥だって魚だって無理でしょう。まさに人智の結晶なのです。
その特性を最大限に利用するのが私の30km/h巡航です。体の重量をうまく推進力に変えることで驚くほど楽に走れます。

 

○自転車の選択

ナカガワ

30km/h程度の速度域では重量や材質の影響はありません。いわゆるママチャリではギア比の制約で難しいのですが、5万円のクロスバイクに運動靴でもいいスピードで走れます。しかし高価な機材を使えばモチベーションは上がります。
最適なのはカーボンフレームの高級ロードです。できるだけ楽に速く走れる自転車を使うのが当座の近道だからです。ホイールなどの走行抵抗、フレームの剛性しなりはそれと気づかなくても速度に影響します。
ロードの一番の特徴としてビンディングペダルがあります。その安全性、快適性を思えばビンディングはディレーラー以降最大の発明品ではないでしょうか。ロードには下ハンというアドバンテージもあります。
おそらく50万円のロードと5万円のクロスバイクでは30km/h巡航時でも時速で0.5km〜1kmぐらいの差がついてしまうでしょう。数字は小さくても実際に並んでみると絶望的な大差です。いい自転車は同じ速度でも上手に走っている気になれますし、どんどんスピードアップできるかのような錯覚も味わえます。「努力を続ける」ためにはそういう感覚があんがい効果的なものです。

○自転車以外に必要なもの

自転車以外に必要なものは特にありません。速度計だけは必要です。30km/hで走っていることを確認するためです。ケイデンス計とか心拍計、パワーメーターなどハイテク装置はなくてもかまいませんがあると楽しいものです。衣服その他は他所の指南書を参考にしてください。自転車以外のグッズについては壊滅的に誤った情報を目にしたことはありません。


自転車の調整---------


自転車の調整は大切です。とりわけ「ル」で終わるパーツの調整は常に意識しておく必要があります。サドル、ハンドル、ペダルの3つです。

○サドルの高さ角度

サドルの高さ角度、前後位置の調整は自転車セッティングのキモです。これが決まらないと何をどう(50万円のカーボンホイールに換えてみるとか)やっても無駄になります。調整法は他の指南書を参考にしていただくとして、30km/h巡航は、サドルは「前寄り低く」からはじめましょう。下ハンを持って脚の裏のほうがつっぱったり、背中や腰がしんどい場合はサドルを下げるだけで解決することがあります。低いサドルでは力が入らないと感じることになるかもしれませんが、それでもかまいません。30km/h巡航には力が不要だからです。

○ハンドルの高さ距離

ハンドルバーのフィッティングは、サドルやペダルに比べるとかなりいいかげんでもかまわないようです。
下ハンで走って背中が自然に伸ばせる所にハンドルを置きましょう。その昔、ハンドルバーまでの距離は「サドルの先端に肘を当てて手を伸ばし3センチぐらい届かない。高さはサドルより5センチほど低く」と習いました。それでいいように思います。
私は境川を走っていて初心者のみなさんのハンドルが高すぎるような気がしてなりません。前傾姿勢がつらいと感じる場合は、ハンドルのポジションよりも、柔軟性よりも、力の入れ方に問題があると思います。

○ペダルのどこを踏むか

すでにビンディングペダルを使いこなしている人はそのままでかまいません。足の幅の一番広い所がペダルの軸に沿うようになっていると思います。これはとっても重要なポイントです。踏む場所をまちがって、しかも踏みつけるようなペダリングをしていると、たいしたスピードも出せないのに足首や膝が故障する恐れがあります。もし体重がうまく乗らないなと感じる場合は、クリートを踵寄りに調整すると改善できる場合があります。
ビンディングを使ってなくて土踏まずがペダルに乗っている人は修正しましょう。かっこ悪いです。


基礎練習------


ロードの指南書に必ず出てくるのが「90rpm」です。1分間にクランクを90回転させます。自転車の達人は異口同音に「90rpmで走れるようになろう」と呼びかけます。自転車に関してはプロ・アマ寄ってたかって初心者をミスリードするのが常ですが、この90rpmに限っては本当です。なにしろ、これができないうちは自転車の本当の面白みを感じることができないからです。

○90rpmで走れるようになろう

プロが90rpmを推奨するのは、40km/hで巡航するのに最適なケイデンスということらしいです。目標はもちろんそこではありません。
にもかかわらず、90rpm練習が必要なのは、自転車で最も重要な筋肉を目覚めさせ、自転車向きの持久力を養うためです。
自転車で一番大事なのは脚を持ち上げる筋肉です。脚の重量は片方だけでも10kg以上あるそうです。10kg以上もあるものを1分間に90回持ち上げるのは大仕事です。最初はかなりつらいはずです。腕力でそれをやろうとすれば、力士や重量挙げのチャンピオンでもすぐに音を上げるでしょう。
日常生活では眠っている巨人を目覚めさせ本来の力を発揮してもらえるようにするのが90rpm練習です。とにかく強い筋肉なので、90rpm練習程度の負荷だと1万回やっても筋肉痛になりません(たぶん)。脚を上げる筋肉は強力で疲れ知らずなだけに酸素もエネルギーもよく使います。つまり心臓はどきどきして腹が減ります。

○90rpm練習法

サドルにはどっかり座るのが基本です。初心者向けの指南書に「ペダルとサドルとハンドルに体重を分散させましょう。そうするとお尻が痛くなりません」などと書かれていることがありますが、無視してください。やってみてもいいですが、自分は自転車に不向きと誤解するのがオチです。初心者がペダルやハンドルに体重を預けて半日走れるわけがありません。そもそも乗車姿勢だとハンドルで体重を支えることは不可能です。
90rpm練習の目標はただ一つ、脚の重量だけでできるだけ長く走ることです。ギアは軽いものでかまいません。最初は2倍ぐらいが適当でしょう。フロントは小さい方のギアを使いましょう。初心者向けのロードではフロントインナー34Tが主流だと思います。2倍なら後ろはギア17T、きっと真ん中あたりです。ケイデンス計はなくても速度計で概算できます。700cの自転車ならギア2倍で90rpmだと時速22〜23kmです。上達すれば15Tを使って26km/hぐらいまでスピードアップできるでしょう。
90rpm練習のポイントは、足が後ろにあるときに、足腰を折りたたんで持ち上げ、足が一番上に来たとき全ての力を抜いて地球の重力のままに落とすことです。落ちる前足を上がる後ろ足がじゃまするとうまくいきません。ときどきチェックしましょう。
ギア比2倍のペダルは相当軽いはずです。駅の階段がしんどい人でも30秒は続くでしょう。それを5分、10分と伸ばして30分連続してできるようになるのが目標です。とはいえ10km以上もブレーキを使わずに走れる道路はありませんから、90rpmでも息があがらず普通に話ができるなら目標達成とみていいと思います。週末サイクリストでも半年から1年もやればきっとできるようになります。

○90rpm練習の注意点

基本の90rpm練習ではフォームもペダリングもむちゃくちゃでかまいません。要は90rpmで走ってみることです。持ち上げた脚の位置エネルギーだけで自転車を進めることに集中してリズミカルに呼吸をして頑張りましょう。
尻の皮がむけるかもしれません。だれでもサドルにどかっと座って長時間走れば尻は痛くなるものです。痛くなったらギアは重く低ケイデンスにして休憩しましょう。前足のペダルに体重を乗せることでその痛みは取れます。ベテラン上級者は皆そうやってます。
腕や肩や首が痛くなるかもしれません。安心してください。それらの場合は自転車に慣れてないだけです。
ただし90rpm練習程度で腰・膝・すねが痛くなるのは大問題です。最重要ポイントの「持ち上げた脚の重さで走る」ということができていない恐れがあります。方法を見直しましょう。サドルの高さ角度があっていないと永久に到達できないかもしれません。
90rpmができた日には、のどの痛みも体の痛みもなく、自転車ってホントにいいもんだ・・・と感じていただけるでしょう。自転車を健康とかフィットネスの道具として利用するのなら、次の段階に進む必要はありません。数年後には腹から下がきゅっと締まったセクシーな体が手に入ると思います。

○基本中の基本は脱力走行

自転車用の体になってステップアップしたくなったら70rpmぐらいでゆっくり走ってみましょう。やりかたは90rpmと同じです。ギアを探って脚の重さだけで70rpmにします。そして全身の力を抜いていきます。脚を持ち上げる力以外は使わずクラゲになった気分でゆらゆら走ります。これはとっても大事な練習です。自転車の上達には自分がどこでどんな力を使っているか明確に意識できなければなりません。そのためにはまず力を抜いた状態を知る必要があるからです。
たとえば、全脱力状態を作り出せたとして、フルパワーでハンドルを握ってみます。握力以外は使いません。そのときふと、足が軽く回っていることに気づくかもしれません。最初は「握力で足が軽くなるなんで錯覚だ。あの有名プロコーチだってハンドルは軽く握れと言ってた」と思うでしょう。でも何回かやっているうちに「気のせいじゃない。腕力が自転車を走らせるのに役立っているんじゃないか」という発見があったら儲けものです。「腕力の何が効いているんだろう、足を上げるときに腕が体の支えになっていそうだ。そうなら全力で握るんじゃなくて、足を上げるときだけ腕で押してみたらどうだろう」ここでようやくプロコーチの言う「軽く握る」の真意がわかるというものです。
さらに不調に陥ったときに無駄な努力を見つけ出すのに役立ちます。腕、肩、背中・・・と意識できる所の力を抜いても速度が落ちなければ、抜いた部分は速度を殺して体を壊すために使ってたんだと気づくことができます。
こういう感じでTPOで使うべき筋力、休ませるべき筋肉を発見して行く以外に上達の道はありません。このトレーニングはプロ級の腕前になっても繰り返しやる必要ありだと思います。


はじめましょう---------


90rpmの道半ばでもかまいません。30km/h巡航を目指して練習を始めましよう。90rpmができないと30km/h巡航は無理です。逆に90rpmを楽々こなせても30km/h巡航ができるとは限りません。両者は似て非なる運動ですが、90回まわせる人ならきっとできるようになります。繊細なテクですが、大して難しくはありません。しょせんは自転車で走るだけです。

○上半身の重量も使う

脚の重さは10kg以上あり、走行抵抗が小さいロードでは足をペダルにかけて自由落下させるだけでもかなりのスピードになります。それが90rpm練習の原理でした。ただ、脚の重量だけでは30km/hに達しません。30km/h巡航では上半身の重量を加えます。私は身長170cm、体重60kgの標準的な体格ですが、上半身の重量を合わせて走ることで30km/hになります。

 

ギアとケイデンス---------


30km/h巡航ではギアを3倍にして、1分間あたり80回クランクをまわします。

○ギアは3倍

リアディレーラー

自転車はギア比とケイデンスでスピードが決まります。重いギアを速く回した者の勝ちです。重いギアをゆっくり回したい人、軽いギアを速く回したい人、いろいろいるかもしれませんが、30km/h巡航ではギアは3倍が適当です。90rpm練習ではインナーギアを使いますが、フロントインナー34Tだと3倍のギア比は難しいのでアウターを使用します。フロントアウターが50Tならばリアは17T。48Tならば16Tです。


○ケイデンスは80rpm

ケイデンスは80rpmです。1分間に80回クランクを回します。ケイデンス計がなくても速度計があればケイデンスの計算はできます。700cのロードでは80rpmのときギア比を10倍すれば速度になります。3倍のギアを使っていれば時速30km、2.5倍だと時速25kmです。


フォーム----------


フォームは下ハンが一番です。その最大の理由は、上半身の重心を前方に位置させることでペダルに体重を乗せやすくできるからです。ドロップハンドルは手前の方を握ります。奥の方を握って腕力で引っ張るのは全力スプリントのときです。リラックス走行の下ハンは手前を握って腕は伸ばし気味です。

○姿勢

顔を上げて肩を落とし胸を開きます。外人の肩すくめポーズのようになるとダメです。頭を下げて背中を丸めるとすぐにしんどくなります。下ハンなのに上体が垂直になっていると錯覚するぐらいでちょうどいいものです。
とにかく背中が縮こまってしまわないよう心掛けましょう。無理に反ることはありませんが、丸まって緊張するのは最悪です。背中がしなやかなライダーを見ると「こいつ、強いな!」と思います。

○座り方

サドル上は恥骨と坐骨の3点で座ります。状況に応じてこの3点にかかる体重の割合を変えます。上ハンで体を立てるときは後ろの坐骨寄りに、下ハンでは恥骨寄りになります。
「仙骨を立てるべし」という指導がされることがありますが、私にはその意味がわかりません。腹を引いて腰を立てればペダルを強く踏めます。でもそれが続くのは数回です。無理に腰を立てれば体全体に余計な負荷がかかり息が苦しくなってペダリングどころではなくなってしまいます。
私は30km/h巡航するとき「腰はあえて倒して恥骨で座る」ことを意識します。体全体を折りたたむ感じです。下腹は上がってきた太ももが軽く触れるぐらい突き出し気味にします。
プロのレースをテレビで見ていると、確かに仙骨が立っているように見える選手が大勢います。でも、背中が曲がって腹と太ももが大きく開いている選手は全くいません。そういう奇妙な格好の選手を見たい人は、アニメの弱虫ペダルを見ましょう。私は大好きで漫画もアニメも繰り返し見ています。


力の使い方--------


90rpm練習ではサドルにどっかり座って膝を上げ下げして走ります。そのことは一旦忘れてください。「膝の上げ下げ」の意識があるうちは上半身の体重は使えません。膝を忘れ、腰を使って太ももを前に出しながら上げます。もちろん膝は上がっていて見た目に違いはありません。しかし、走る感覚が全然違います。

○膝を使わない

「30km/h巡航程度なら太もも以下の筋力は支え」と体に叩き込みましょう。前足の大腿筋に負荷がかかっているようだと失敗です。

体育会系の健脚自慢に多いのですが、大腿筋を使って膝を伸ばす力でペダルを踏むと、30km/h程度の速度でも膝が左右に振れてしまいます。膝に力が入っているペダリングは疲れるばかりで故障の原因にもなりかねません。
前太ももの筋肉は膝を伸ばすためのものです。もも裏ハムストリングは膝を曲げるためのものです。ふくらはぎは足を伸ばすためのものです。膝も足も大きく動き、それらを動かすことははっきり意識できます。そのため、太ももやふくらはぎの筋肉を使って自転車を走らせていると錯覚します。実際に働いている筋肉は腰回りにあって使っていることが自覚できないほど強力なのです。

30km/h巡航は、ももの上げ下げに使う腰回りのパワーを持続可能なレベルで使う技です。

○足運び

膝はまっすぐ上げてまっすぐ降ろすのが基本です。膝がトップチューブに触れるぐらいすぼめるペダリングでは太もも内側付け根に余計な負荷がかかります。くるぶしを使うペダリングもおすすめできません。30km/h巡航では、ふくらはぎの負荷を軽くできるよう足は水平を意識するのがいいのではないでしょうか。水平と思っていても後ろ足の踵は上がっているものです。

○体重を使うイメージ

体重をペダルにかけるのはそれなりに難しいテクです。ただ、うまくいってることを確かめることは簡単です。サドルとハンドルと後ろ足に体重がかかっていなければ、全体重は落下するペダルにかかっています。逆にサドルにどかっと座っているときは上体重の0%がペダルにかかっています。上体重がペダルにかかる割合ができるだけ高くなる状態を一瞬だけ作り出せばよいのです。

○圧力ポイント

ペダルが上死点にあるときに足で軽く踏んで尻の筋肉半分だけ浮かせます。そのまま上死点を過ぎたペダルに体重をかけます。その時間は0.1秒ぐらいです。ライダーの重心はへその先にあります。それをできる限り前足のペダルに乗せることをイメージします。右ペダルが上死点にあるとき、前輪を右に向けて自転車を少し右に倒すといいかもしれません。一番前にあるペダルが頭の真下になるイメージです。

○脱力ポイント

ペダルに最も推進力がかかるときに全力で脱力を意識します。一番前にあるペダルを踏みたいところですが、あえて重量だけをエネルギーにします。ペダルを押し下げなくても体重だけで30km/hで進むことは可能です。上手な脱力は耐久力アップの奥義です。
下死点の直前でしっかりサドルに座ります。下死点のペダルに体重が乗ったままだと脚を上げるタイミングが遅れ、後手後手のペダリングになってしまいます。下死点にあるペダルにかかる重量は0kgと意識しましょう。

○腕でリズムをとります

下死点を通過して後足が上がりペダルが水平になるあたりで腕を意識します。左足が上死点に向かうとき、体は足腰の動きに合わせて前に移動します。そのとき左手でハンドルを押すと、カウンターになって前方に向かう体が上に動きます。そのタイミングで上死点にあるペダルを踏むと上体を楽に浮かせることができます。上死点を過ぎると速やかに脚の力を抜いて体重でペダルを落とします。
腕と下半身の連動イメージは距離スキーのストック、登山のピッケル、トレッキングポールに似ています。
ハンドルを押し引きするタイミングとリズムを掴むのはけっこう難しいと思いますが、これができると走りに軽快感が出て楽しさが50%アップします。ハンドルの押し引きは上ハンやブラケットでもできますが、一番やりやすいのは下ハンです。

○目標は50%

ペダルにかかる重量は上半身の50%は欲しいところです。ビールマンスピンとかシライグエンみたいな無理難題ではありませんので、その気でやれば誰でもできます。20%でも10%でも5%でもかまいません。上半身の体重がまったくかかってなくても自転車はフツーに走ってます。走りながらチェックして徐々に腕を磨きましょう。


実走行練習-----------


かる〜く30km/h巡航ができるようになると真夏の暑さも堪えません。日差しがあっても気温が体温以下なら、30km/hの風で空冷できます。幸い境川は湘南のいい海風が入ることもあり境川でうだった経験は皆無です。

○負荷は小さい

準備運動とかストレッチとかウォーミングアップとかめんどうなことはいりません。行きがウォーミングアップで帰りがクールダウンと思っていて間違いありません。自転車はすぐれたフィットネスマシーンです。体にかかる負荷は早足で歩く程度です。脚腰の負担は速歩のほうがずっと大きいと思います。
休憩は15〜20分ごとに30秒ほどとっています。自転車を止めて足をつき水を飲み、先の15分の反省と次の15分の狙いを確認します。体力増強、速度アップは気にせず、技術面に集中して「いい感じ」をMAXにすることだけを考えています。

○道選び

できるだけブレーキもハンドルも無用で長時間走れる平坦な道を見つけて下さい。
私がこれまでこの練習に最適だと感じたのは茨城県の霞ヶ浦でした。100kmの全周にわたりいい感じにサイクリングロードが整備されています。連続して30分ぐらいは気兼ねなく走ることができそうです。
神奈川県には5分も10分も30km/hですいすい走れる平坦道はありません。134号線は信号が合えば3分ぐらいは走れます。小田原厚木道路の側道はもっと行けます。ですが、そういう道路は脇を自動車が高速で通過しますから初級者には恐ろしい場所だと思います。
境川サイクリングロードは両側に延々張られた鉄のフェンスで人の飛び込みが防がれています。見通しもあり屋外ローラー台としてかなりいけてます。札幌の豊平川、埼玉の荒川、東京の多摩川にも引けをとりません。ただし散歩道にもなってます。歩行者や一般の自転車を威圧しかねません。30km/h程度でも自転車を知らない人の目には激走しているように見えるものです。境川は人がいない雨の日がねらい目です。気兼ねなく3分の巡航練習が可能です。

Goproというビデオカメラを買ったので調子に乗って境川で撮影してきました。境川での30km/h巡航練習はこんな感じです。

○平均速度

30km/h巡航といっても、走行平均速度が30km/hというわけではありません。一般道をそんな速度で走るのは自殺行為です。
その昔、一度だけ一般道で平均速度が30km/hを越えたことがありました。渋谷-世田谷の8km足らずを自転車通勤していたときです。自転車はチューブラーのロードで、ジーパンに運動靴です。あのときはがむしゃらにストップ&ゴーを繰り返す全開走りでした。東大駒場の登りは全部ダンシング。加減速していないとき速度計は45km/hから落ちることがありません。夜明け前で自動車はまだライトをつけ淡島通りの信号機は黄色点滅が多い時間帯でした。
もし日中の淡島通り、世田谷通りで同じく平均速度32km/hを記録しようと思えば、トップスピードは60km/h以上が必要になるでしょう。
今ではそんな無茶は考えられません。連続徹夜の意識朦朧か若気の至りだったのでしょう。私が実走行時間4時間ほどの30km/h巡航練習をしたとき、普通の道路なら平均速度は20km/h以下、境川サイクリングロードだと25km/h程度です。風の強いときに境川を往復練習すれば平均速度はもっと下がります。サイクルコンピュータの平均速度に一喜一憂することは無用かと思います。

○ギアチェンジ

道路には風が吹きます。風は自転車にとってくせ者で、風に応じてギアを変える練習をしなければなりません。河川のサイクリングロードだと時速15kmぐらいの風が吹いているのが常です。止まっていて顔に風圧を感じ、道端の草がなびくぐらいの風です。その程度の向かい風でも3倍のギアで80rpmを維持すると体感で2倍のパワーが必要で、負荷は峠練習並になってしまいます。30km/h巡航の向かい風では、ケイデンスを落とすかギアを落とすかして負荷を調整します。

○ギアの意味

シフトレバー

前足にかかる体重を太ももで支えているなら失敗です。太ももに負担がかかって「これじゃ、半日もたない」と感じる場合はギアを落としてペダルを軽くする必要があります。逆にすこんすこんペダルが落ちるようだと、ギアを上げます。

自転車のギアはトルクとケイデンスを一定にして速度を変えるためにあります。境川ではたかが5秒の発進加速時とか橋を越える5mの坂でギアチェンジをしている人をよく見ますが、あれはこっけいです。自転車のエンジン(人間)は容易にトルクを変えられるようにできています。発進加速時のシフトアップには機材の寿命を縮める以外の効果はありません。風が同じならシフトレバーに触る必要はありません。

川沿いの向かい風シチュエーションでは、フロント50Tならばリア21Tか23Tぐらいになるでしょうか。それで80rpmを維持します。速度は23km/hほどに落ちます。23km/hでも30km/巡航をやってることに変わりありません。初級者用のロードには最低で1.5倍程度のギアはついているはずですから、風でギアが足りなくなる心配はありません。
実は風にあったギアを選択するのは高等テクニックです。最初は3倍のギアでケイデンスを落とすほうが良い練習になるかもしれません。いずれ上級に進むにはケイデンスとギアシフトと両方のテクをマスターする必要はあります。

ちなみに30km/h巡航達成という目標に「風圧の壁」はありません。入門用アルミロードで30km/h巡航できない人がカーボンディープリム装着の100万円エアロロードで走っても状況は打開できません。空力のいいプロ仕様の自転車で走れば速くなるのは当然ですが、27km/hが27.05km/hになる程度でしょう。
30km/h程度で風がきついと感じたらそれは向かい風です。走行時の風向きがすぐにわかれば初心者卒業です。



理論の裏付け--------


重力ペダリングが上達してくると、力以上に自転車が進む感覚があってたいへん気持ちがいいものです。いま流行の電動アシストを得たようなものです。
進む速度は筋力にも持久力にもかかわりません。この方法で走る限りツールを走っているプロと並ぶことができます。脚と体を持ち上げる持久力および重量の何パーセントを進む力に変えられるかで差はでますが、身体の位置エネルギーを開放するだけですから理論上は誰もが同速です。

○80rpmの理由

体を自由落下させるエネルギーだけで自転車を進める場合、もっとも効率がよいのが80rpmです。ケイデンスが低いとスムーズにペダルが落ちる感じがしません。高いと上半身の重さがしっかりかかりません。
クランク長170mmならば、80rpm巡航時のペダルの速度は1.3m/sです。ペダルが一番前にあるとき、ペダルは1.3m/sで落下しています。上死点から脚を自由落下させると、170mm落ちたときの足の速度は1.8m/sになります。単純に考えて1.3m/sと1.8m/sの差が靴底に感じる圧力です。その圧力が自転車内と地面と空気の摩擦に抗って速度を維持する力になります。
もし体重だけで自転車が進むのなら、理屈の上では大きなギアを60rpmで回しても同速です。ならばそのほうが楽なはずです。しかし、実際に試してみるとそうなってはくれません。ケイデンスが小さいとそれだけ体重を足で支える時間が長くなります。しかもニュートンの反作用の法則通りに体重を支える脚力も必要になり、ふくらはぎや太もも前にある筋肉に効いてきます。10回ぐらいならいいのですが、120回もやると筋肉がもたなくなります。
また、ケイデンスが100rpmを越えるようになると、ペダルが一番前にあるとき、足よりもペダルの方が速く落ちてしまいます。そうなるとペダルが下死点付近に行ってから体重がかかり、位置エネルギーは自転車を歪める力になってしまいます。高回転時にも効果的に体重を使おうとするなら、ケイデンスが高くなればなるほど体重をかけるポイントを早く時間は短くしなければなりません。ペダルの落下速度とのかねあいでそうなります。私にはできない上級レベルの技でしょう。
超高速ペダリングの推進力は筋力だよりで重力は補助です。ちゃんとしたトレーニングを積んではじめて使える技です。

○3倍の理由

重力走行の最適ケイデンスを80rpmとして、最高効率最速になるギアを探って行きます。小さいギア比だとせっかくの体重を活かしきれずスピードに乗れません。重いギアだと80rpmにするためにはより長く体重をかける必要があります。かける時間にも限度があり、大きなギアを選ぶと体の重量だけでは80rpmを維持できません。私の場合、52×16Tではケイデンスが70rpmぐらいにしかならず速度も落ちてしまいます。
80rpmで走っているときに最適なギア比になっているかどうかは、足裏にかかる負荷で見ることもできます。試しに80rpmで歩いてみましょう。歩行のときは足裏に全体重がかかるだけでなくほんの少しですが体を持ち上げています。歩行時に足裏で感じる負荷は、自転車よりもずっと大きいのです。自転車はペダルを落とす運動ですから、足で体重を支える必要はありません。30km/h巡航では足裏がペダルを押す感じはほとんどないはずです。ペダルが上死点を通過する一瞬だけ足裏に圧力を感じます。
私は80rpmギア比3倍で足裏に圧力を感じたときは黄色信号だと思っています。別の練習に入っています。ちなみに太ももにまで緊張があれば赤信号です。3分後に力尽きます。そうやってがんばるのが境川名物の向かい風練習です。


ネクストステージへ--------


ホビーサイクリストでも、もっと速く走り次のステージに上がりたくなるのが人情でしょう。風と勝負したい。32km/hで抜かれたおじいさんを抜き返したい。斜度7%で5kmの登りを25分でクリアーしたい。というような思いに駆られるのは自転車乗りの性です。
残念ながら30km/h巡航のやり方ではスピードアップは望めません。物理的限界値なのだからしょうがありません。次のステージに進みたい人は筋肉でペダルを押し引きする「回すペダリング」の練習を始めなければなりません。じつはそのステージのことは私にはわかりません。選手の体感を想像することができないのです。ラルプデュエズの登りを24km/hで駆け抜けるなんて考えられません。私にできるのは30km/h巡航に毛を生やすぐらいのことです。
ひとまず参考までに気づいていることをお知らせします。

○無の力を動員する

スピードアップにはケイデンスを上げることがあります。3倍のギアで踏み込んで90rpmにすれば、33km/hにできます。じつは解説を続けながら内緒にしていたことがあります。重力を強調しながらも、本当は無意識に筋力でペダルを押しているはずだと気づいているのです。その力というのは太ももを下げる力で、力の源は臀筋です。
もし「太ももを下げる力を使います」というアドバイスを受ければ、初級者は太ももに力を入れてペダルを押すのではないでしょうか。太もも前にある大腿筋は膝を伸ばす筋肉です。まずいことにペダルが前の方にあるとき膝を伸ばすと、ペダリングのブレーキになります。前足の膝を伸ばすと頑張っている感じがあり練習の満足感はありますが、実効出力はありません。下手なペダリングでは膝やくるぶしが故障して自転車が嫌いになるかもしれません。
太ももを下げる筋肉は尻にあります。脚を上げる筋肉同様にとても強力で使っていることを意識することさえ難しい無の力です。この力は重力走法と相反しません。

○ビンディングペダル

いずれ一般の自転車では限界がありますので、足をペダルに固定して「回すペダリング」ができるビンディングペダルを使うことになります。膝を伸ばす力を使うにはビンディングペダルが必須です。最初は足を固定することが恐いかもしれませんが、慣れればフラットペダルのほうがかえって危険なんじゃないかと感じます。ビンディングペダルには初心者向きの容易に着脱できるものもあります。

○下腹を意識してみる

ビンディングペダル使用の自転車で33km/hで走るために、大事なのが尻の筋肉です。臀筋を意識的に使うには、まず腰回りを安定させなければなりません。
下腹をふくらませる感じでぐっと力を入れてみます。そこに力を入れても自転車の推進力にはなりません。しかし、腰全体が安定して確実に太ももを下げてペダルを下げられるようになります。左右の尻でサドルを踏んで骨盤直結のペダルを引きずり回すイメージです。

○足を前後に運ぶテクを磨く

足を前後に運ぶのは膝を曲げ伸ばしする太ももの筋肉です。ペダルの上死点通過時に膝を伸ばして足を前に運びます。下死点では膝を曲げて足を後ろに引きます。それだけだとすぐに疲れて長続きしません。
腰を安定させることができたら、腰回りの力をペダルを前後に運ぶことに生かしてみましょう。有効なのは腰のひねりです。ペダルの下死点通過時に腰を後ろにひねりながら足を上げていく感じです。腰のひねりは反対側で足を前に運ぶ力になっています。
次のステージに進むときは腰回りで踏み込みながら回す練習をやってみましょう。

○ただいま練習中

このたび「回すペダリング」でも手軽に体重かけができそうなヒントを得ました。
上半身の体重をかけるには、ペダルを踏む反作用でサドルから腰を浮かせる必要があります。私の30km/h巡航はできるだけ筋力を使わないよう、上死点でペダルを踏む技です。
その逆で、下死点で踏み込めばもっと素直に上体を浮かすことができます。ただし下死点の踏み込みはエネルギーロスが大きいものです。ロスを最小限にできるのが「体側で踏み込むペダリング」です。少しずつできるようになって、これかっ!という気づきがありました。
「体側で踏み込むペダリング」では自転車が左右に振れます。踏み込み足のほうにハンドルを切って自転車を傾けるのですが、その傾きによって上半身の体重がペダルに乗る感触がありました。
右足が上死点にあるとき、サドルが右に傾くと、右の座骨がサドルから少し浮きます。恥骨と左座骨はサドルに乗っているので体全体が浮いている感じではないのですが、右座骨が浮けば右足のペダルに体重が乗る感触があります。「体側で踏み込むペダリング」ならエネルギーロスが少なく、脚へのダメージも小さいようです。

30km/h巡航とは真逆の方法ですが「体側で踏み込むペダリング」ならクランク1回転で使える全ての力をいっぺんに動員して自転車を進めることができるのではないか? 登りを平坦と同じ感触で走れるのではないか? これこそ最速理論じゃないのか? と練習しているところです。(2022年8月追記)




Q&A

立ちこぎのコツはありますか

私は立ちこぎをなるべくしないようにしてます。無駄が多いからです。よくスタートのときとか速度アップのときに立ちこぎするライダーを見ますが、あれはかっこわるいと思っています。
立ちこぎしない私の言うことですから、話半分に聞いていただいて・・・・立ちこぎがうまくいかない場合は踏みつけ過ぎのことが多いようです。ペダルを踏む動作はまったく推進力になりません。例外は腕を引いて体全体を伸ばして全力疾走する場合です。そういう局面は初心者には訪れません。3mの段差は別として。
初心者に訪れる立ちこぎ局面は座ったままだと全力でペダルを踏んでも止まってしまう激坂です。コツはどれほどの激坂であろうとペダルを踏みつけることなくペダルに全体重をあずけることです。腕力は体の支え、つまり押す方向にのみ使います。
テクニックとしては、ギアの選択が最重要ポイントです。体重だけですんなりペダルが落ちる絶妙なギア比を探りましょう。スコンと落ちて下死点でショックを感じると軽すぎです。その状態でリズムをとって高ケイデンスを維持するのは競技用の技でダンシングとよばれています。ダンシングは修練が必要な難しいテクです。もしいつものサイクリングコースで体重だけではペダルが落ちない登りがある場合は、ギアを変えるか自転車を押して歩きましょう。

体重で走るってことがピンときません

感じがつかめない人は上体を使わずに体重を使う練習をしてみましょう。ちょっと重いかな?と感じるギアを選びます。ペダルが上死点にきたとき、脚に力を入れて少し踏みます。その力は歩くときの4分の1ぐらいの体重を感じるくらいでしょうか。ペダルを踏めば反作用で体は浮きます。その後、最大限に体中の力を抜きます。ハンドルを持つ腕も踏むときに足腰に入れた力も、ペダルが一番前に来る前に抜きます。体の重心がBBより前にあれば浮いた体の位置エネルギーでペダルが落ちます。
30km/h程度なら「ハンドルを引く」必要はありません。練習を積めばこの方法でも25km/hの巡航ができます。それに体をちょっと浮かせますので、股・尻の痛みを軽減できます。

「体重かけ+回す」でもっと速くなりませんか?

残念ながら私の30km/h巡航のやりかたと回すペダリングは両立できません。脱力して体を落としながら、ペダルの前後方向にも推進力を加えるのは不可能と思います。
ペダルを回しながら体重をかける乗り方もあります。大きなギアを使って重いペダルを踏み込んで反作用で体を持ち上げるやりかたです。簡単に体が浮いて上体の重量を推進力として使えます。ただし反作用に耐えてペダルを回す筋力が要求されます。
身体能力が高い人は自転車に乗り慣れた初心者レベルで40km/h巡航します。プロサイクリストの巡航速度とケイデンスを見れば、彼らは常に体を半分浮かせた状態で走っているのだと思います。彼らは平然と3.5倍(52×15T)ぐらいのギアを使っています。凡人の私には無理でしたが、たじろぐことはありません。ぜひトライしてみてください。巷の指南書で指導しているのはこの乗り方だと思います。

フリーパワーってありですか?

ありだと思います。設計をみる限りでは、フラペの一般人がプロ並みのエネルギー効率で走れるクランクのようです。練習不要でプロの走行感が体験できるかもしれません。

向かい風をすいすい走るには?

そのためには「対空速度」を考慮しなければなりません。向かい風でついついがんばって力尽きるとか、焦ってしまうことは初心者の常です。
私の30km/h巡航で対応できるのは対空速度45km/hまでです。そこからはどれだけがんばっても加速できません。対空速度30km/hで走っているとき、風音はひゅうぅぅぅっと聞こえます。対空速度45km/hともなると、風音はごぉぉぉっと聞こえ胸でも風圧を感じます。
向かい風で走るときの心得の第一は「対空速度」を30〜35km/hに保つことです。時速10キロの向かい風で巡航練習するなら25km/hで走りましょう。ギアを2.5倍にしてケイデンスを80rpmにします。時速20キロの向かい風なら20km/h出せなくてもしかたありません。風は呼吸しますから風音を聞きながら力を入れすぎないように、抜きすぎないよう、一定ペースを保つのが向かい風克服の鍵です。向かい風が好きになったらしめたもの。時速10〜20キロぐらいの向かい風は低速でもペダルの架かりが良くて楽しいものです。
ちなみに時速30キロの風は、気象学の秒速では8mぐらいです。そこいらの道路ではめったに吹かない風です。境川では初夏にそんな南風が吹きます。横風を受けると恐いです。時速50キロの追い風だとまっすぐ座って両腕を広げると、風圧だけでヨットのように進んで行きます。台風の風は時速60キロを越えます。自転車で走ることはできません。
簡便な自転車用の風速計があればいいなと思います。パワーメータで同様の練習はできますが、素人には役不足な気がします。

体が固くて下ハンができません

下ハンで走るために体の柔軟性は必要ありません。自転車で使う柔軟性は立位体前屈だとマイナス30cmぐらいだと思います。下ハンで背中や脚の裏のほうがつっぱるのは姿勢の悪さでしょう。腰椎、脊椎を丸める下ハンは長続きしません。ブラケットを持ち息を吐いて腰と背中から力を抜いて体を倒すと自然に下ハンの姿勢が決まると思います。サドルが高すぎるとうまくいきません。思い切って規定値から1〜2cm下げて感じをみるのも必要でしょう。
また力の使い方も考えてみましょう。腕でハンドルを引いて脚でペダルを踏む乗り方は腰と背中に高負荷がかかりすぐにしんどくなります。走りながら意識して腰と背中の力を抜きましょう。
ちょっと前にインスタグラムなんかで『バランスチャレンジ』というのがはやりました。下ハンで走る30km/h巡航の姿勢はちょうどあんな感じです。体を折りたたんで背中を伸ばして顔を上げると腕でハンドルを支えなくても姿勢を保つことができます。普通に下ハンで走れる人なら、その姿勢のまま手放しで走行できるでしょう。実走で試すのは危険なのでローラーでやってみてください。できないようなら練習あるのみです。『バランスチャレンジ』ができないぐらい体幹が弱くても姿勢良く自転車に乗っていれば筋力もバランス感覚も自然に鍛えられると思います。

サドルが決まりません

まず、完璧なサドルなんてありません。あきらめてください。イタリア製のちょっと高価なのを買って使い慣れるのが王道です。サドル選びでもっとも気にしなければならないのは、上のカーブだと思います。私はカーブの大きいものになじめません。TPOで座る場所を変えることが癖になっているからだと思います。
また、サドルがフィットしてないと感じる原因はセッティング不備によることが大きいものです。サドルは高さ・角度・前後の3Dで調整します。まずは高さですが、その昔、フランスで発明された「股下×0.885」という公式がはやりました。私は股下77cmなのでサドルはBB中心から68.1cmの高さということになります。そこを最高点として合わせてます。これより3cmまでは低くてもOKですが2mm高いとどうしようもありません。これも絶対の公式ではありません。ディルーカみたいなペダリングをする人は、たぶん数センチ高い方がいいのでしょう。
角度と前後位置は同時に調整するとわけがわからなくなります。どっちか一つずつ変えましょう。ピラーはその昔、ボルト1本締めが主流でしたが、いまは2本締めです。2本締めのほうが楽に調整できます。私はサドルの中心から前方にかけてゆるやかに上がるように調整しています。この角度っていうのが微妙で、2本締めボルトの半回転ずつこまめにあわせて行きます。ネジのピッチが1mmなら半回転で0.5mm。それで先端は5mmぐらい上下します。けっこうな変化です。
前後位置はシートチューブの延長がサドルのセンターに来るのが基本と思います。ペダリングのときに背中から腰が丸まって圧迫感があったり伸びすぎたりしていると感じる場合は前後に動かして調整します。前後位置を変えると高さも変わるように感じると思います。前よりにすると低くなり、後ろにさげると高く感じます。
サドルのセッティングを間違うと自転車は進みません。しかし万能なセッティングはありません。ハンドルのどこを握るかでサドルの調整は変わります。登りと平坦でも変わります。強く踏むとき速く回すときでも変わります。自分のサイクリングで一番使うとこにあわせてセットしてあとは体を合わせる、と割り切るのも手です。

ハンドルを押すことができません

けっこう難しいと思います。はじめは無理に押しても逆効果と感じると思います。もしあなたが、かめはめ波を放てる武道の達人なら、その感触を思い出してください。かめはめ波は体の中心に集めた気を、背中→肩→腕→手と順に移して手のひらに集約して開放する技です。ハンドルを押すときにも、背中の肩胛骨のあたりから肩を経て、腕から手へとパワーを送って手のひらでハンドルを押します。かめはめ波はエネルギーを集中するため両手を使いますが、こちらは左右交互です。
スタートが肘からだと失敗です。膝下でペダルを踏むのと同じく無駄な力を使うことになります。背中、脇腹、肩を柔軟かつパワフルに使うことを意識してください。
押したら引きます。特に登りを攻めるときなどに有効です。ぎゅーんと長く押し、ぱっと握り返すように短く引くのがコツです。うまく引けたときは、ハンドルに放った気を体に取り戻す感触があると思います。

登りがしんどくて嫌です。楽にこなせませんか。

「どんなに強くなっても楽にはならない。速くなるだけだ。」私の師匠の名言です。師匠は世界最強のプロですから、血を吐く思いもサイクリングのうちですが、初心者はまず楽することを覚えましょう。登りになると、息が切れる、太ももぱんぱん、腰が痛い・・・それはがんばりすぎというものです。
まず一番に、10%1kmくらいの坂(その辺にはあまりない難関です)なら楽にこなせるはずと確信してください。二番目に自転車の改造も検討してください。10%の登りがしんどい人はギアが足りないのかもしれません。私がロードをはじめた頃の自転車はインナーローが2倍(42×21T)でした。軽くても39×23Tです。そんなものを、その辺のおじさんおばさんが乗りこなせるわけがありません。昨今ではロードでも普通にギア比1:1にできます。なじみの自転車屋に行って「等倍ギアに変更してくれ」と頼みましょう。あなたの自転車が新しめのクロスやロードなら最低限のスプロケット交換だけですみます。リアディレーラーとチェーンを換えても1万円程度の出費だと思います。
等倍ギアの自転車をゲットしたら、近所の坂に行ってこけないギリギリの遅い速度で走る練習を積みましょう。40rpmで時速5kmぐらいが最低になると思います。踏みつけないように注意しつつ太ももを下げる力でしっかりペダルを踏み、腕でハンドルを引きすぎないように、背中を丸めないように顔を上げて走りましょう。まずは遅く走ることがポイントです。登り坂を時速5kmで歩くのはしんどいものです。自転車のほうが楽です。10%までならいけると思います。
登りで足を踏み降ろすことに集中するのは初級者です。中級者をめざしてビンディングペダルを使いこなすには足を前後に運ぶことを意識しましょう。特に上死点で太ももを使って足を前に運べるようになると軽やかさが50%アップします。登りではペダルがどこにあっても推進力をかけるのが理想です。
低速でも蛇行しないようになったらそこそこの腕前です。登りでは無理な姿勢、無駄な力がなくなってはじめて直進できるからです。10%1kmの登りをケイデンス80rpm、6分で走りきればいっちょ前です。少なくともぶっちぎりで私に勝てます。
私は「下手の横好きの好例」だと自覚しつつ峠に熱を上げています。峠を攻めれば死ぬほど苦しい思いをします。もっと楽に登れるはずとの試行錯誤を10年以上続けています。ペダリングやフォームを考え直して、平坦でも登りの練習をするつもりで、最高に効率的な走り・・・正しくは手抜き・・・で出せる最高速を追求していると30km/h巡航に落ち着きました。
残念ながら、30km/h巡航と峠のタイムトライアルは別物です。2016年夏現在、斜度7%、距離4.7kmの半原越をがんばって23分ほどで登っています。ためしに30km/h巡航の方法で半原越を登れば30分を大きくオーバーするでしょう。
ちなみに15%級の激坂は30km/h巡航の乗り方では等倍ギアでも進めません。クランクを回せないうちは歩いたほうが楽です。

体の重さより筋力で走るほうが有利ではないのですか

筋力で速く走るためにはこれまでの自転車技術を全て忘れて新ライダーに変身しなければなりません。ビンディングペダルを使いこなして「回すペダリング」をする必要があります。いまの世の中には形だけのみっともないロードレーサーがあふれています。われと思う方はスペシャルな費用と時間がかかる高いハードルを越えてその集団から抜け出してください。
プロの速度をみていると、筋力に優れた人は体の重さで出せる倍以上のパワーを出せることがわかります。リカンベントという乗り物は重力が使えず筋力で走るように設計されています。それでもけっこうな速度で走ることができます。鳥人間コンテストの飛行機も筋力でクランクを回すタイプが主流のようです。体の重さだけでは、揚力を得るだけのパワーに達しないのが主因と思います。それに加えてペダルがどこにあっても安定した力を加えられ、プロペラを回転させるにはあっているのではないかと想像します。
体重で走れるスピードは30km/h巡航が限界です。物理的な決まりごとなので、ここからスピードを上げることができません。ただその速度でも普通のサイクリングロードではけっこう速いものです。素人には必要十分な速度が楽に出る乗り方がふさわしいんじゃないでしょうか。

3倍のギアが重すぎるようですが

体重によって最適ギア比が変わるのではないかと思います。最適値80rpm3倍は2016年夏現在体重60kgの私の体感です。
また、スタートから30km/hまで加速するときには、巡航時を上回る力を加えることが必要です。その10秒がつらくてあきらめることになるかもしれません。また、力の使い方に慣れてなくて3倍だとついつい足で踏み込んでしまって筋力が続かなくなるかもしれません。
ギアが重く感じる場合は無理せず、80rpmが維持できる軽いギアから始めるのがいいでしょう。2.5倍程度、フロント34Tでリアのギアは小さい方の2枚か3枚めになります。そのあたりから少しずつ重くして1000時間の練習後で最高効率の3倍に上げてください。脚の重量、上体の重量を十分に使えばきっと3倍のギアが80rpmで軽快に回るようになります。

中間のギアがなくて困っています

自転車は繊細です。30km/h巡航をしていると、微風でもギアの軽重を感じるでしょう。風に応じたギアが選択できれば、それだけでも初心者卒業です。
私の場合、フロントを52と42の2枚にしています。30km/h巡航時に風が来て52×17Tでは重いけれど18Tでは軽い場合、インナーに落として、42×14Tのちょうど3倍にします。ギアの組み合わせを把握しておくことも中級者へのステップアップには必要です。ギア作りのコツは、平坦無風で常用するリアギアの半枚大きいギアをインナーとの組み合わせで作れるようにしておくことです。
ちなみに一般的なフロント50と34でリア9速か10速の自転車だと、50×17Tが常用ギアになろうかと思います。ところが、リアに18Tのないものが多く、次に軽いのが50×19Tになります。それではギアが飛びすぎなのでインナーを使いたいところですが、34×12Tだとチェーンラインがかなり厳しくなります。50×18Tがいちばんおいしそうと感じときには、リアスプロケットを変えるのもいいのですが、フロントインナーを39に変更してみるのも手です。39×14Tが50×18Tに相当します。
エクセルでギアの表を作りましたので、ギア比に興味のある方は参照してください。

これからロードを始めます。どれぐらいでマスターできますか

私の例でいいますと、30km/h巡航ができるようになるまでに3年ぐらいかかりました。休みの日だけ乗って、1年間に500時間、1万キロ走っています。3年の間に30km/h巡航の練習は500〜1000時間ほどやったでしょう。それくらいで、できる感触を掴み、最高にエコな走法と確信し、理屈の裏付けがとれました。迷いも回り道もしましたので、その気でやればその半分ぐらいでマスターできるのではないでしょうか。週イチ独学なら、どうしても進歩は遅々としたものです。基本の90rpm走行も感触良くできるまでには1年以上かかると思います。ゆっくりロードを楽しんで下さい。

全体重を使うと体が上下に揺れてしまいませんか

実は私も体が若干上下していることを自覚していますが、見た目で分かるほど揺れていたら失敗です。ペダルを体重で落としても上体を揺らさないことは可能です。脚の伸縮をペダルに合わせることができるからです。達人だと立ちこぎで全体重を使っても上体が揺れません。その一方で、めちゃくちゃ揺れてもめちゃくちゃ速いコンタドールのような怪物もいますから、個性を伸ばす手もなきにしもあらずです。

下ハンだと腕がしびれて長続きしません

腕力がないと下ハンで腕を押すのは難しいと思います。押し引きなしで軽く握っていても下ハンポジションは可能ですので、まずは手に力を入れないことに意識を集中させたほうがいいかもしれません。じつは「押すふり」をするだけでもペダルが軽くなります。どういうわけか走りのリズムは腕を使うととりやすくなります。手はヒトが最も自由に使うことができる部位だからでしょうか。
ちなみに次のステージに進んでペダルを押し引きしようとすれば腕力も必要になります。

「回す」ことはホントに不要ですか

90rpm練習では不要です。足はペダルといっしょに回っていますが、自転車を進めるのは足ではありません。回っている足はただの支えです。推進に効くのは太ももの上下運動です。推進力は太ももが下がるときにかかりますが、その源は位置エネルギーですから、太ももが下がっているときには脱力を意識します。そのときに反対のふとももは上がっていますが、落ちた物体を上げるには筋力が必要です。力を抜いて右脚を下げ、筋力で左脚を上げる、力を抜いて左脚を下げ、筋力で右脚を上げる、この単純な動作をスムーズに繰り返すことに集中しましょう。90rpmだと0.3秒ごとに体重パワーの極大値がペダルに掛かります。それで十分と思います。

うまく体重がかかりません。何かヒントを。

体重を使うときに気をつけなければならないのは「タイムラグ」です。体は気持ちに遅れて動きます。0.15秒ぐらいは遅れるはずです。ペダルが一番前にあるときに体重がかかるように心がけているようでは遅すぎます。一番上にあるペダルに体重をかけるつもりで頑張るぐらいでちょうどいいものです。
ヒントになるのは立ちこぎです。立ちこぎの寸止めをやってみましょう。「さあ立ちこぎだ」と腰を上げかけて、サドルから腰が離れる前にやめてみます。立ちこぎでは下死点のペダルを踏んでいるはずですが、寸止めでは下死点を踏むと出遅れてしまいます。そもそも立ちこぎは通常の姿勢のまま体を前に倒す感じにするとうまくいくものです。この寸止め立ちこぎは下ハンのほうがコツがつかみやすいでしょう。

ビンディングで引き足を使いたいのですが

ぜひチャレンジしてください。引き足を加えるだけで、スピードは一気に2〜3%もアップします。
まずは下死点にあるペダルを引くのが一番簡単です。引きを意識するのはペダルが一番前にあるときです。そこまできたら、ペダルを下げる気持ちは捨て、後ろに引きます。
下死点を通過するときに、引き上げに移行します。引き上げるときに、ハムストリングを使って膝を曲げる力を使うことができますが、最初はかなりしんどいと思います。ハムストリングはあくまで支えとして使い、腰をひねって太ももを下げる運動のついでに引く、ぐらいの気持ちのほうがいいでしょう。
また「引こう」とすると逆の脚は「踏もう」とするかもしれません。引きと踏みの速度がぴったり合えばカンペキですが、ずれると引っかかりが出て力を入れることが逆効果になります。前脚は脱力して落ちるままに、引く後足のじゃまをしていないことを意識してください。引き足練習をはじめるとき、力を入れる感覚では引き脚9に踏み脚1ぐらいでいいと思います。それでも推進力になるのは、引き脚1に踏み脚9でしょう。気持ちと実効出力に大きなずれがあることは時々思い出さなければなりません。

回すペダリング
壺神山 IoT ride
30km/h巡航
夜昼峠サイクリング
高野地サイクリング
古谷(こや)
古藪サイクリング1
古藪サイクリング2
古藪サイクリング3
半原越(はんばらごえ)
金山サイクリング
佐田岬サイクリング
鞍掛山一周サイクリング

カタバミ  テトラ  ナゾノクサ
たまたま見聞録→