たまたま見聞録

回すペダリングの基礎理論

回すペダリングの理屈はとってもシンプルです。速やかに上達し故障を防ぐためにも基礎理論を押さえましょう。

自転車はまちがった乗り方でも普通に走れます。お買い物自転車をちゃんと乗れてる人なんてまずいません。そしてビンディングペダルで回すペダリングをはじめると、間違いの上に間違いを重ねて悲しいことになります。以下のような指導を目にすることがあると思います。

○ ペダルが円を描くよう意識せよ。
○ ペダルは踏むな。
    ※とりわけ下死点の踏みはNG

一見正しそうですが、実は二重の間違いから生まれる純情素朴な思い違いです。この他にも「回し=高回転・踏み=低回転」なんてのもあります。「そんなん当たり前。わかってるよ」という人はこの先読み進める必要はありません。

「たわけたことを。踏まないから回すっていうんだ。円を意識しないで回せるわけない!」と思う人は基礎理論を学びましょう。そもそも「踏み」と「回し」を分けるようでは上達の見込みはありません。

○ペダリングの基本のキ

ところで、走ってるときペダルの場所がわかっているでしょうか? それがペダリング練習の基本のキです。ペダルのありかがわからずに回すも踏むもあったものではありません。

基本のキ

ペダルと膝の関係を図にしてみます。
白い扇形が太ももの軌跡、白い円がペダルの軌跡です。
ペダルが上死点(一番上)にあるのが緑。一番前にあるときが赤。下死点(一番下)にあるのが青。一番前後ろにあるときがマゼンダです。
図のように、膝とペダルの位置関係は固定されています。

○基本は踏む力

自転車はペダルを踏んでスピードを出します。この指南書では「踏む=太ももを下げる」です。これも重要ポイントです。ペダルにかかるその力を矢印にしました。

基本のキ

ペダルにかかる力は膝が向かう方向と一致します。ペダルが上死点にあるときはやや後ろ下向きの力がかかります。ペダルは前に進みますから、ここで踏んでも全く推進力になりません。
ペダルが前のほうにあると下向きの力が生きるようになります。
ペダルが一番前から下死点に進むにつれて、下後ろ向きの力になって強い推進力がかかるようになります。

重要なのは踏む力は必ず後ろ向きにかかるという点です。青矢印の下死点でも後ろ向きです。

○フラットペダルの最適位置

基本のキ

自転車を走らせるのは、ペダル円軌道の接線方向への力です。左図のマゼンダ矢印は最適位置での力の向きです。この一瞬だけ太ももを下げる力の全てが推進力になります。


以上がペダリングの幾何学的基本、そして太ももを下げる力でペダルを踏むのがペダリングの基本です。これはどんな自転車にもあてはまります。お買い物用自転車でも100万円のロードでもかわりません。尻、もも裏の筋力がある人なら、フラペをスムーズに踏んで、かる〜く30km/h程度で巡航できるでしょう。余計な力をかけずに踏めれば、速度をおとさず腰や膝の痛みがとれることもあります。



○4つの力

回すペダリングは4つの力で進みます。

@ 太ももを上げる力
A 太ももを下げる力
B 膝を伸ばす力
C 膝を曲げる力

@はとっても大事な力なので1番にしました。推進力になる力ではなく、位置エネルギーを蓄えるのが仕事です。@だけでも自転車は進めます。他の力を使うにはそれなりのテクニックが必要ですが、この力だけは初心者でもすぐに使いこなせます。そのため特に注目されることがありません。しかし、この力がなければ自転車は1mも進みません。誤って「引き足」と言われることもあるようです。

Aは筋力+重力を合わせた強い力です。ネットで「骨で踏む。尻で踏む。股関節を回す。etc」などとイミフなコピペがされてますが、指しているのはいずれもAです。

BCが水平方向への力です。なくても問題ないほど小さな力ですが、これらが使いこなせると、主力であるAを生かすペダリングができます。

これら4つの力を案配するのがペダリング技術の全てです。

○「回す」の意味

「回す」ときには膝の曲げ伸ばしを意識しなければなりません。太ももの上げ下げと膝の伸展、この2つを分解して考えないかぎり「回す」の意味はわかりません。残念なことにネットではこの点に言及している解説が見つかりません。

30°

左図はペダルが30°にある瞬間の模式図です。
青い矢印は太ももを下げて生まれる力、赤い矢印は膝を伸ばして生まれる力です。ピンクの扇形は膝を伸ばすときの膝下の軌跡です。こんなに前には行きませんが、大事なことなので強調表記しました。太ももの上げ下げと同じく扇形です。力をかけられるのは、これら2つの円弧の接線方向だけです。

最重要ポイントは、膝を伸ばす力(赤矢印)は必ず膝とペダルを結ぶ線と直角になることです。

分力合力

ここで左図のように、踏む力(青)と膝を伸ばす力(赤)を同じくらいペダルにかけてみます。

赤と青の矢印の向きはペダルの場所で確定しています。ペダルにかかる力の大きさと向きは、左図のように平行四辺形の対角線(黄)で表されます。中学校で習ったベクトルの合力ってやつです。

ちなみに合力(黄)の大きさは以下の式になります。

黄色=赤cosα+青cosβ

黄色矢印の方向は赤と青の割合を変えれば変わります。青を大きくすれば下向きに、小さくすれば上向きに振れます。

接戦方向°

黄矢印の力が全部推進力になるわけではありません。推進力はペダルが回転する円の接線方向への分力です。

ペダルが30°にあるときのペダル転回円の接線は白線で示しています。じっさいに推進力として生きる力はこの接線上の分力です。マゼンダ矢印で示しています。ペダルがこの位置にあるときは、推進力はほぼ膝を伸ばす力に一致します。

ペダル転回円の接線方向への分力は青矢印を伸ばし、黄色矢印を大きくしても増えません。0にしても小さくなりません。このペダル位置では太ももを下げる力は無駄足です。ということは、30°あたりでは膝を伸ばすことに専念し、60°あたりで太ももを下げる方に切り替えればロスを減らせます。円を意識して回すペダリングがそれです。

しかしそれをペダル転回の全周で行うのは無理があります。腿の上げ下げと膝の曲げ伸ばしで生まれる力の方向はペダルの位置で決まっているからです。終始円運動を意識していると腫れ物に触るようなペダリングになります。大きな力を出せる所ではロスを承知で踏むことも必要です。「回す」というのは人体の構造に合わせて効率的に出力することです。



○無駄な反作用

自転車に乗るヒトは体の構造上の制約から、ペダルにかける力の方向が限定されています。一方、自転車のほうはペダルの転回円の接線方向への力しか推進力として受け入れてくれません。
ニュートンが気づいたとおり、力をかけると必ず同じ強さで反作用が来ます。ペダルにかけられる力は直角な2つの力の合力ですから、足が完璧な円で回ったとしてもそれなりの反作用は避けられません。「回す=高ケイデンスで軽く」というのは誤解です。単に軽く回って反作用が小さくなったとしても、実効出力を手加減してるなら腕は上がりません。正解は無駄な反作用を避けることです。

30°

左はペダルが90°にあるときの模式図です。
ここで太ももを下げるのを止めて膝を伸ばしてみます。その方向は膝を中心とする円(マゼンダの扇形)の接線方向で、図の赤矢印のような力がペダルにかかります。方向はペダルが向かう方(白矢印)と直角です。そっちにはペダルは1mmも動きません。すべての力が反作用(マゼンダ矢印)となって返ってきます。完全な無駄足です。

忠実に「ペダルが円を描くイメージ」で回すなら、ペダルが一番前にあるときは鉛直方向に力を加えることになります。膝はやや後ろ向きに動くので、あえてこの無駄足を加えて真下に修正しなければなりません。まったく馬鹿げた話です。

脚を伸ばす力でペダルをこぐ初級者はもれなくこの無駄足を使っています。ロード乗りでもこの無駄な努力をけっこうやらかします。上死点から足を前に運び過ぎたり、立ちこぎであせって膝を伸ばして踏み込むときなどです。

無駄な反作用は頑張り感抜群なだけに要注意です。ペダルが90°から下にあるのに、甲やつま先に圧力を感じて、すねの筋肉が緊張するなら失敗です。無駄な反作用を意識できるようアンテナを張りましょう。

○最悪のペダリングとは

下手な自転車乗りは「自転車は脚を伸ばす力で走る」と思い込んでいます。「脚を伸ばす」では、股関節、膝、くるぶしの3つの区別がつきません。互いに直角な力が混合して、ペダリングカオスに陥ります。

間違い

巷で間違って「(脚を伸ばして)踏む」といわれているのは、ペダルが120°ぐらいにあるときに「膝を伸ばす」ことです。
膝を伸ばす力を赤矢印で示しています。もし赤矢印単独ならペダルは逆回転します。
一方、太ももを下げる力を青矢印で示しています。踏みながら膝を伸ばすと、ペダルにかかる力は合力の黄色矢印です。黄色の力はペダル転回円の接線(白線)への分力(マゼンダ矢印)として実効出力になります。青だけのときよりパワーダウンしています。腿前に力を入れて赤を強くすればするほど実効出力は落ちます。

ペダルが90°を過ぎると膝の曲げ伸ばしは役に立ちません。ペダルは下に離れて行くので膝は伸びますが、それは人体の構造上しかたなく伸びているだけです。力を入れて膝を伸ばしてはいけません。ここは脚の力を抜いて太ももを下げることに集中する局面です。太ももを下げる力の方向はおおむねペダル転回円の接線方向に沿います。

この位置で膝を伸ばすと、足首に強い反動が来て、すねやふくらはぎの筋肉が悲鳴をあげます。まずすねの外側の筋肉が痛くなり、次にももが張って膝が痛くなります。おまけに、りきみのせいで膝下の重量を有効利用できません。
百害あって一利無しの最悪ペダリングなのですが、頑張り感だけは抜群です。『痛みに耐えて頑張った。運動後のビールがうまい。自転車サイコー』という満足感はあるのかもしれません。

通学用自転車だと、力を入れる局面でペダルを踏みつけがちです。その辺にある30秒ぐらいの登りならそれでこなせます。そして間違いに気づかず50万円の自転車を買うことになります。笑うとこではありません。先輩方にペダリングを教えられる人がいないのです。

なにかと計算どおりに行かないのが人生ではありますが、自転車は計算どおりにしか進んでくれません。走るたび特定の場所にストレスがかかるなら、力を分解して考えると解決できるかもしれません。実際、回すペダリングがちゃんとできれば、おもいっきり踏み込んでもすねやふくらはぎにストレスは来ません。プロ級の豪脚なら話は別でしょうが。


○最適位置

150°

ペダルが130°〜150°ぐらいのところが回すペダリングの最適位置です。図のようにももを下げる力の全てが実効出力になります。ペダルはこのポイントを軽く通過し、全然がんばってない感覚になります。
それは、ももを下げる力のベクトルがペダルの進行方向に一致して、反作用(マゼンダ矢印)が小さいからです。

自転車は巡航していても加速度運動です。いろいろな摩擦抵抗を受けています。クランクを電動モーターで回すなら、ペダルの位置にかかわらずモーターの軸は同じだけの反作用を受けます。原理的には足も同じですが、足の場合はペダルが向かう方からずれた2つの力を案配しなければなりません。推進力をかけているはずなのに軽く通過するのは、反作用が小さい上に人体の構造上出力しやすいからです。

平坦を85rpm、30km/h足らずですいすい走っているなら、ここではすっとペダルが流れていくはずです。この位置でペダルに力を加えている感じがあれば悪いペダリングだと思ってください。もしかかとが落ちるほどの大きな反作用を食らっていると感じる場合は、前ももに力みがあって膝を伸ばしているのかもしれません。要チェックです。

ここでの良い反作用は膝を伸ばす方に働きます。小さいながら反作用に負けないよう、もも裏を使って踏ん張ります。実際は膝が伸びているところなのですが、気持ちでは膝を曲げる感覚になります。ここを過ぎるとすぐに下死点ですが、躊躇なく出力したいところです。


○すねとふくらはぎ

すねとふくらはぎの膝下筋力は推進力をかけるのに無力です。歩行、ランニング、球技のステップなどでは重要筋肉ですが、自転車では使えません。足の曲げ伸ばしは、フリー回転するペダルに無力だからです。ためしにペダルを止めて足の曲げ伸ばしをしてみれば理解できます。
すね、ふくらはぎは、他所の筋肉がペダルを動かす力の反作用に耐えています。言い換えれば、耐えるだけでいいのです。登りでふくらはぎが攣るのは、踏み込みの力に耐えられないからです。向かい風と勝負して、すねの細い筋肉が痛くなるのは膝を伸ばす踏み込みの反作用をくらっているからです。
足首を動かしてできることは膝下の長さを変えることとペダルにかかる力を緩めることぐらいです。力の方向を変えることもできません。回しているはずなのにすねが痛くなったら「膝下の力はそのケイデンスが維持できる最低限に」ということを思い出しましょう。



○引き足

180°

左は、ペダルが180°いわゆる下死点にあるときの模式図です。
下死点で太ももを下げると青矢印のように推進力がかかります。脚を上げるポイントは下死点より先にあり、緑の扇形のように下死点以降の可動域を利用して踏み抜くことができます。合わせて、膝を曲げる力を赤矢印のように加えることができます。これが本当の引き足です。踏み抜きの力と合わせて(黄色矢印)力強いペダリングになります。

「下死点下向きの力はNG」は脚の伸展でペダルを踏むペダリングの誤った常識です。下死点で踏む力は後ろ向きにかかり、おそらく2割ほどは推進力になると思われます。もともと大きな力だけに、その2割を捨てる手はありません。

下死点でもうひと踏ん張りできるかどうかが、登り上達のポイントといって過言ではありません。私は引き足を、ペダルが一番前にあるときに膝を曲げて引き始め(じっさいは伸びているのですが)、下死点で引きやめて、惰性で膝を曲げる・・・という感覚で練習しています。



○後ろ足

300°

引き足はやり方を間違えると逆効果に陥ります。
下死点を過ぎて、左図赤矢印のように膝を曲げる力をペダルに加えることができます。ただ、ここでは太ももを上げる方向(マゼンダ矢印)と不一致で、推進力は膝を曲げる力のみです。苦労のわりに小さくて、やり過ぎるともも裏が攣ります。かなりトレーニングしないと使いこなせないでしょう。じつは私はこの引き足が使えません。

300°あたりで青矢印のように太ももが上がる方向とペダルの方向が一致してきます。ここで推進力をかけたいところですが、そもそも脚を引き上げるのが大仕事です。なおかつ、逆の足はその重さもかけてペダルを強く踏み込んでいます。青矢印は逆足の踏み込みを邪魔をしないよう最低限にするのが効率的です。足を前に出すはずみづけの感じでしょうか。



○見せ場

300°

330°からはビンディング使いの見せ場です。太ももを上げる力(青矢印)と膝を伸ばす力(赤矢印)の2つの力がペダルの進む方向と合ってきます。2つの力の合力(マゼンダ矢印)の方向は、それぞれの力の割合に応じて自由自在です。黄色の扇形の範囲でいかようにもなります。腕が上がれば、ここから90°までは、ペダル転回円の接線(白線)と一致させ「真円をイメージして回すペダリング」ができます。やりがいマックスの練習ポイントですね。

○上死点通過

300°

左図はペダルが上死点を通過して膝が最高点に来たときの模式図です。ここで使えるのは膝を伸ばす力だけです。

マゼンダの扇形はペダルがない場合の膝下の軌跡、膝を伸ばす力(赤矢印)はこの扇形の接線方向です。

とりわけ緩い登りを制するポイントは、なるべく強く、できるだけ回数多く、足を前に運ぶことだと私は思っています。もも前筋肉は弱くて疲れやすいのですが、回すペダリングには必須です。筋力の鍛えどころです。幸い自転車に乗りながらの強化がやりやすい部位です。




○4つ力の使い分け

「回す」といっても終始ペダルの方向を探ることではありません。要はどのペダル位置で4つの力をどれだけ使うかです。

また、使わない筋肉は休ませる意識が大切です。たとえば膝を伸ばす筋肉はどれかを突き止めて、上死点付近で使った後はなるべく力を抜きます。とくに膝を曲げる局面で最大脱力します。使ってない筋肉を休めるのは簡単そうに見えて簡単ではありません。感じる力が必要です。
筋力アップは苦しいですが、さいわい脱力トレーニングには楽しさしかありません。そして持久力アップの秘訣といって過言ではありません。



○回る重心と錯覚

重力°

ためしに左のようにいいかげんな作図をしてみました。@ABCと打った数字は脚の重心です。上死点からはじまって、重心は@→A→B→Cと移ります。いびつな楕円を描いて回転していそうです。

脚は重力で鉛直方向に引っ張られています。足の回転する円の中心はサドルより前にあるので、踏み足のときはやや後ろのほうに引かれるのでしょう。それがペダリングに影響することは考えなくてよさそうです。

@→A→B→C→@の1周は0.7秒ぐらいです。重量は10kg以上あるらしい脚が相当な勢いで回っています。こちらのほうはペダリングの感触に無視できない影響がありそうです。
左右の脚の重心は回転の方向は同じで、位置は180°の点対称になっています。右脚が@→A→B→Cと動くと左脚はB→C→@→Aと動きます。重心の動きの支点の腰はその方向に引きずられて、間違った感触をもたらすでしょう。

私はペダリング時に膝が回転しているような気がしてなりません。股関節が上下前後に8の字旋回しているような気もします。そんな錯覚の原因が重心移動にあるんじゃないかと思います。

ただし、そういう錯覚が起きるのは快調なときです。すいすいくるくる足がペダルにかかってびゅんびゅん気分よく走っているときです。膝が「回って」股関節が「旋回して」いても、それはそれで順調のサインなんだから、まいいかなと思います。



○回すペダリングの正解

以上のように幾何学的に分解していくと、回すペダリングのコツは単純だということが明らかになります。だれにでも当てはまる正解があります。4つの力が有効なペダルの位置も決まっています。その場所で力をかけられる方向も決まっています。誰にもどうすることもできません。

回すペダリングでは、大きすぎる反作用をくらわないよう力を分散させることができます。平坦を85rpm、30km/hぐらいで快走していると、足にかかる力もわずかです。反作用を支えている膝下は、それぐらいのトルクなら半日耐えきれます。体の部分的な痛みや凝りは失敗のサインです。反作用を知ることで、推進力のかけかたのまずさを知ることができます。
そのために意識することは、ペダルがある所に応じてどの力をどれだけ使うかだけです。逆から考えれば、力を使うポイントがあっていれば、力のバランスが狂っていてもまあ良しということです。

○足がセンサー

足は大切なセンサーです。推進力の反作用はペダルの回転に応じて、シューズの甲、底、かかとで感じることができます。それぞれの大きさで「膝伸ばし遅い、踏み過ぎ、引き足効いてない」などと自覚できます。

トルクと回転°

ペダリング時にはヒトの感触と実効出力はズレています。踏んで足の裏に感じる感触は出力に比べて小さいはずです。実際の練習ではどれぐらい走行出力できているかを知るのは足の感触だよりです。「全力で回してるとき、こんな力を感じていれば正解だね」と考えているイメージを図にしてみました。

赤が甲やつま先に感じる圧力の強さです。これは太ももを上げる力と膝を伸ばす力で生じます。

青は靴底で感じる圧力です。膝を伸ばす力でも感じますが、それはあまり良くない反作用です。
たとえば、足が前下のほうにあるときに、甲とつま先に圧力を感じるなら要注意です。固い反作用をくらっています。
立ちこぎが上達すれば、甲とつま先に来る反作用がなくなって楽になります。

緑はかかとに感じる圧力です。膝を曲げる力に伴います。


○力と時間

下の図は1秒間を切り取った、ペダルに加わっている力のイメージです。自転車の速度はそれぞれの山の大きさの総量にかかっています。スピードアップのコツはそれだけです。

パワーと時間°

一番大きな太ももを下げる力を一番長くかけてますが、それでも0.5秒未満です。それぞれの力を加えている感触が得られるのは0.1〜0.2秒程度でしょう。この短時間に使用筋肉を切り替えながら出力を上げていかなければなりません。

意識すべきは下の4点だけです。

@ もも下げパワーは下死点手前で極大
A もも上げパワーは上死点手前で極大
B 膝曲げパワーは下死点直後に極大
C 膝伸ばしパワーは上死点直後に極大

そして以上の4点をスムーズに連続させます。「円を描くように」「下死点で踏むな」という意識は捨てましょう。


パワーと時間°

ペダルは左右にあって点対称の動きをしますから、全部の力を合成してみると上図の青線のようになります。実際の推進力はペダル回転方向への合力で、ずれがありますが始終ペダルに推進力がかかっている感じはあります。きっと登りを制するのはこんなペダリングができる人だと思います。じつは私はこれができません。10%ぐらいの急坂では、1.2倍(34×27T)程度の激軽ギアでもスムーズな力の移行ができなくなってしまいます。素質の限界でしょうか。練習不足でしょうか。


○プラスα

αというのは重力です。上半身をプラスαすれば驚くほどスピードアップできます。通常は脚の重さだけしか使えませんが、上半身の重量を前足で支えれば重力によってペダルが落ちて強い推進力を得ることができます。回すペダリングでも上半身の重量を使わない手はありません。

上半身の重量は体を浮かせば使えます。サドルにどかっと座っている限り、腕で引こうが前傾を深くして重心を前にしようが無です。

素朴に考えれば、ギアを重くして前足を踏み込めば、体が浮き上半身の体重が使えることになります。ですがそれはしんどいです。90rpmぐらいだと、体重が乗るのはほんの一瞬ですが、それでも30回もやれば脚全体がむずがゆくなってスムーズに回せなくなります。他の技と違って、完全に体力だよりで、もはやトレーニング領域に入るのではないでしょうか。自転車の進む先に目標もゴールもない私には無用だと思ってます。それに「体重を持ち上げる」「体重でペダルを落とす」という相反することを同時にやることがはたして効率的なのかと疑問です。

競技者ではない趣味人にはそれなりの方法があります。上死点か下死点でペダルを踏めば、軽い力でサドルから体を浮かせることが可能です。回すペダリングでは下死点の方が簡単です。下死点の踏み抜きは反作用として体が浮きます。引き足を使ってペダルを回しながら、伸びた脚(足ではありません)で太ももを下げる力でぐっと踏んで、サドルから腰を浮かせます。その浮いた分の体重を、腰のひねりも利用して前足に乗せればプラスαの力を推進力にできます。いわゆる座り立ちこぎです。
また、右足が上死点にあるとき自転車を右に倒すと、右の尾てい骨がサドルからちょっとだけ浮きます。それだけでもプラスαの効果を感じます。この場合の倒しかたは、普通の乗り方とは反対だと思います。注意して練習しないと実感できないでしょう。

下死点でペダルを踏んで腰を浮かせる方法は登攀時の高トルク低ケイデンスではかなり難しいです。足が最前に達する前に体がサドルに落ちるからです。それでも上半身の体重を使いたいなら前足の重いペダルを踏み、膝下と太ももの筋力で体を支えることになります。いわば階段登りのような体です。その方法は私の脚力では30秒ほどしか持ちません。30秒後からは、がんばっていても体が浮かず、たんに踏ん張っているだけになってしまいます。
一方、平坦巡航の高トルク高ケイデンスでは有効です。100rpm、40km/hぐらいで走っていると踏み出しのかかりの良さでプラスαの力を実感できます。

ともあれ踏み抜く力の強弱加減は自由自在です。思いっきりやってもその反作用はジョギングに比べればなでるようなものです。ジョギングだと、どれだけゆっくり走っても左右の足は体重以上のショックに耐えながら蹴り出さなければなりません。自転車ってホント楽するようにできています。


○実走練習

私は残念なことに自転車の天分がありません。速く走る体を持っていないので、速く強く走る感触を得たことがありません。プロコーチから上達のヒントが得られないかといろいろ漁ってきました。Youtubeなどでは刺激的なタイトルのついた実走練習の解説がいっぱいあります。ただその指導・解説は私にはちんぷんかんぷんで迷い深くなるばかりです。どうにも感覚的指導ばかりで、わかる人にはわかる、わからない人にはわかりそうにありません。そもそも解説が基本的力学をはずしています。

ネットでペダリング解説をする自転車プロたちも説明に関してはド素人です。体はわかっていても頭でわかってないと伝えることはできません。頭でわかっていても表現力がないと伝わりません。

この指南書の基礎理論は最低限の知識です。ここまで読み進めた人なら最低限のことはもうわかっていることと思います。天分に恵まれた体に知識が加わればプロコーチたちの感覚的指導だって速やかに身についてぐんぐん走れるようになると思います。

実走練習をはじめるにあたって、絶対におさえるべきポイントが1つあります。その筋肉で「出力して」いるのか「支えて」いるのかの区別です。Youtubeのプロコーチ解説はそれすら抜けちゃってます。特定の筋肉に負荷を感じれば、そこを使っているな、と意識することができます。ですが、使っていれば走行出力できているとは限りません。走行出力にならない筋肉をいくら使っても自転車は進みません。

幸いなことに出力に使う4つのは互いに独立しています。左右合わせて8つの力は、個々別々にトレーニングすることができます。「左の膝を曲げる力だけで1時間やってみよう」とか「次の10分は膝を曲げる力を使わないでやってみよう」というようなメニューで技を磨くことができます。

回すペダリングの練習は1日1万回できます。ポイントさえつかめれば、1日1万回の反復練習であっという間に上達できます。

私は練習のはじめの30分は全身の力を抜いて、太ももを上げる力だけで走っています。脚の重さだけで70rpmが出るギアを使ってゆっくり走ります。引き足の練習はそのギアのまま75rpmを出します。太ももを下げる練習を付け足すなら、80rpmにします。膝を伸ばす力を加えるなら85rpm・・・という感じでやってます。どこかでひっかかりがあれば最初の脱力走行に戻ります。こうやると狙った力がホントに使えているのかを把握できます。

ビンディングペダル初心者の場合、全身の力を抜くことは難しいので、ふくらはぎやもも前など、脚を使わないことに専念するのがよいでしょう。自転車以外の全ての運動は、足が前下にあるとき、もも前とふくらはぎの筋肉を縮めて踏ん張り蹴ります。自転車は全く逆です。スポーツが得意な人ほど要注意です。
基本の太ももを下げる力だけで、ひとまず1000kmほども走れば、回すペダリングができる体になると思います。とくに登り坂とか発進時とか、ふんばる局面になったときに太ももを下げる力だけでペダルを踏むとよいと思います。 早晩以前より速く楽に走っていることに気づくでしょう。




参考
 バイシクルクラブ(1985-1994)
 ベルナールイノーのロードレース(1989)
 GREG LEMOND'S COMPLETE BOOK OF BICYCLING(1990)
 ロードバイクの科学(2008)
 山の神 森本誠 ヒルクライムを極める(2017)
 YUKIYA ARASHIRO BICYCLE BIBLE(2019)



壺神山 IoT ride
30km/h巡航
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高野地サイクリング
古谷(こや)
古藪サイクリング1
古藪サイクリング2
古藪サイクリング3
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金山サイクリング
佐田岬サイクリング
鞍掛山一周サイクリング

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