水に没す
水没
その14 水死する謎の草

1996年の9月には堰は写真のように最も低い位置に下げられた。なるほど、大雨で増水したときなどは堰が上がっていると、壊れたり洪水の原因にもなりかねない。この夏は多摩川の水が増えたので堰を上げて水量を確保する必要もないのだ。私は一年以上この堰堤を観察し続けたのだが堰が下げられたのは初めて見た。謎の草さえなかったらこの状況もなんということはないのだが、ほとんど友人と化した草達の息苦しさを思うと、こっちの方も苦しくなる。ただでさえ息がつまる通勤電車がいっそうつらいものに感じられる。

早くあの元気な姿を見せて欲しいと願い続けていたが、堰が上がったのは11月になってからだった。やはりみんな枯死したらしく滝の向こうに緑のかげは見えない。3カ月もの間、暗黒の水中で生きられる植物なんて水草の種とか休眠芽ぐらいのもんだろう。私は溺愛していたものに溺死されてしまったのだ。

98.3.26

   ←前      →次    


目次をみる