カメラを持って堰堤に駆けつけた私はまず大きな落胆に襲われた。堰に張りついている草がクレソンではないことがかなり遠目からも明らかだったからである。がっかりしたが、今はまず確かめることだ。都の職員らしいおっちゃんに断わって足もとが水に濡れるのもかまわず堰に近づいていく。すると先ほどの落胆はすぐに喜びに変わった。速やかに草の種類は一種類ではないことが見て取れたからだ。ざっと見ても5種類はある。
堰堤の壁は私が離れて見て想像していたよりもずっと豊かな世界であった。私の予想していたクレソンは一本もなかった。さらに、そこに張りついている草は沈水植物でも抽水植物でもなかった。みな川辺に生えている陸上の雑草たちなのだ。自然物が予想を超えてすばらしかったとき、それは素直な喜びだ。写真を撮りながらついついにやけてしまう。
「あんちゃん、なんか面白いのかね」とおっちゃんは不審げだった。
98.3.11