流れがとまった
見えた
その8 消えたカーテン

1996年の6月のことである。いつもどおり鉄橋を渡る電車の窓から堰堤を眺めていると、異常事態が発生していた。なんと、滝が干上がって堰の奥が丸見えなのだ。何が起こっているのかさっぱりわからない。もう何百回となく堰堤を見ているがこんなことは始めてだ。モノリスが突然消えていることを発見したアレクセイ・レオーノフ号の乗組員たちの驚きもかくのごとしであったろうか。多摩川の水が涸れたわけではない。例年どおりの渇水傾向ではあったが、今年もそれなりに流れている。

理由はどうあれ、これはチャンスだ。謎の草が何かを確かめる好機だ。会社になんか行ってる場合ではない。私は田園調布で電車を降り、とんぼ返りで堰堤に向かった。

どうやら東京都水道局の取水施設では何らかの目的でメインの水門を下げたのであった。それで、貯めているダムの水位が下がって堰堤からオーバーフローしている水がなくなったのだ。私の謎の草を隠していた水のカーテンは取り除かれた。

98.3.8

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