12月23日 どっこい生きている

年の暮れもせまり気温がぐっと下がるとクロナガアリの活動は鈍る。2012年の天皇誕生日は朝から曇り空で収穫にあたる働きアリはまばらだった。そんな中で巣から仲間の死体を運び出している働きアリを見つけた。
クロナガアリ1 巣の中で死んだアリはこうしてくわえられ、巣口から20cm以上離れたところに打ち捨てられるのが常である。20cmというのは巣の拡張工事に伴う産業廃棄物である泥玉を捨てる場所だ。うずたかく積まれた泥玉の山は半径20cmほどになる。その泥には、種の皮や食べられなかった種などの生ゴミも混じっている。死体はそうしたマウンドの外まで運ばれて行く。
クロナガアリ1 運ばれるのは必ずしも死体ではない。かすかに息があり、触角や脚が動いているものが捨てられることは珍しくない。かねてからクロナガアリの死亡フラグは何だろう?と気になっている。
 追跡している死体運びアリは足を止めると反転して死体を地面に置いた。巣口からまだそれほど離れておらず何か様子が変だと思った。
クロナガアリ1 運んできたアリは地面に置かれた死体アリを数秒間だけチェックして巣の方に引き返していった。そのとき死体のはずのアリが動き始めた。まだ瀕死だったのだなと、私は成り行きを見守ることにした。
クロナガアリ1 驚いたことに、捨てられたアリはやおら起き上がると普通の足取りで巣とは逆の方向に歩き始めたのである。瀕死でもなんでもなかった。よくよく注意して運ばれているときの姿勢を見るならば、6本の脚がきれいに折りたたまれ、昆虫得意の擬死状態であることもわかる。
 どうやら何かの手違いが巣の中で起こってしまったようだ。人間だとこれほどのまちがいが起きると一悶着あるものだ。「なにやってんだ。早く気づけよ」などというやりとりはなく、二人とも怒るでもなく、はにかむでもなく、ごくごく平静に分かれたのである。