ピラミッドと光速


私の大好きなテレビ「古代の宇宙人」のシーズン12のエピソード1でトラビステイラー博士が、ギザの大ピラミッドの北緯と光の速度は10桁ぐらい一致していると言ってた。その一致が恣意的なものならば、たいへん愉快なことになる。必然宇宙人が地球に来ていたことになる。ただ、ピラミッドは大きいので、小数点以下3つぐらいあえばぴったりだ。4番目以下の数字は恣意的に10桁だろうが、100桁だろうが光の速度に合わせてさしつかえない。その辺は笑いどころとしてスルーしないと番組を楽しめない。ご都合第一の我田引水は「古代の宇宙人」のお家芸であるから。

ピラミッドには地学的な数値がいろいろと隠されているらしいが、光速度もその一つなんだろう。ピラミッドが造られたのは1万年とか5000年とかの大昔で、光速度不変の原理は未発見だ。その数字がピラミッドに込められているならば、それを仕込める者は宇宙人ということになる。すばらしい着眼だ。ただし、私はそこに留まらず、同じ前提でもうちょっと先まで考えてみたい。

ピラミッドが宇宙人の指導で造られたとして、そこにあえて光速度をしこんだのは愉快犯であろう。1万年後に地球人が光速度不変の原理を発見してその値を精度良く観測し、あっと驚くのだ。それが見たくてしくんだ罠にちがいない。

北緯は時につれて変化するが、変化の原因がわかれば未来の値は予測できる。いっぽうの光の速度は不変だ。ピラミッドを建造する場所の決定は注意深くあらなければならない。光速度が人類によって発見され、その値が観測される日を予測してエジプトギザ台地のある地点に白羽の矢を立てたのだ。そこはさすが宇宙人。両者がぴったり当たっている。

1万年後の緯度の予測よりもずっと難しい課題がある。度量衡だ。緯度と光速度を一致させるためには、長さの単位をメートルにしなければならない。地球一周の4000万分の1が1mである。そんな単位は当時のエジプトは使ってなかった。また角度の単位として直角を90度に決めなければならない。人類は直角を45とか120とか別の値にする可能性があった。また、時間の単位を1日は24時間、1時間は60分、1分は60秒、ただし秒以下小数点は10進法も可としなければならない。1日が30時間とか12時間になるおそれだってあった。そこらへんがずれると愉快犯は台無しである。

ということを考慮すれば、宇宙人は注意深く度量衡の決定にかかわっていたのだろう。光速度が測定されるときには90度24時間になるように、ヤードフィートインチは排除するように地球文明を導いたにちがいない。あれは軍事大国が使う単位なもんで苦労が大きかったと思う。ピラミッドの建造から現代に至るまで地球を監視する必要から、人工衛星「月」を宇宙の彼方から運んできたという研究者もいる。「古代宇宙飛行士説」ではその通りだという。

そうでないならタイムトラベラー説をとることになる。今地球に来ているのは宇宙人ではなく未来の地球人なのだ。だからグレイは地球人に似ているというやつだ。未来の地球人なら20世紀に光速度が特定されたことは知っている。その知識を持って1万年前のエジプトにタイムリープすればいいのだ。筋は通るが私はその説をとらない。タイムトラベルが信じがたいからだ。現代から未来に飛ぶのは簡単だ。自分のことでなくてよいなら遙か遠い過去を見ることもできるだろう。でも過去に足を運ぶのはとうてい信じられない。

宇宙人のこの1万年の努力によって、首尾良くピラミッドの緯度と光速度を10桁まで一致させることができた。だけど地球人の大半はこの宇宙人のもくろみに興味を示していない。偶然で片付けてかまわないからだ。「古代宇宙飛行士説」に眉唾をつけつつも「古代の宇宙人」を楽しんでいる私ですら、気持ち半分では偶然だと思っている。

本当だというなら宇宙人にはもう一芸を期待したいところだ。緯度はわかった。じゃあ経度はどうだろう。ピラミッドの位置にあわせて距離と時間と角度の単位を決めたのもわかった。ならば経度もなにかそういう不変で重要な数字になっていないのだろうか。距離と時間と角度と来れば次は重さだ。たとえば10年後にヒッグス粒子が素粒子に付加する質量が10進数で記述されるかもしれない。驚くなかれ、ピラミッドの経度が10桁までその数字に一致しているのだ。もしかしたらkgではちがっているかもしれないが、ポンドなら73桁まで一致しているかもしれない。宇宙人だってちょっとはミスもするだろう。もしや日本の匁かもしれない。重さの単位なんて100も200もあるんだからどれかは当たるだろう、なんて不毛な突っ込みはどうか無用に願いたい。

経度を合わせるためグリニッジ天文台の建設にまで手を回したとなるともう宇宙人の存在を疑う者はいない。人類全員が彼らの実力を明解に意識するだろう。そしてその日、彼らはテレビに出てくるはずだ。扇風機の前のような声で「われわれは宇宙人だ。地球の諸君よ」と呼びかけるだろう。

彼らは何を語ってくれるのだろうか。「ロズウェルに落ちた覚えはない。そんな間抜けなことはしない」「UFOで誘拐もしないし、牛の血を抜くこともない」「イースター島にモアイは建ててない。ナスカに落書きもしてない。そんなものケーブルテレビでみてはじめて知った」「イギリスの麦畑に2つほど絵は描いた。バンクシーにあこがれた若い者のいたずらだ。叱っておいた。農家には謝罪したい」聞きたいことは山ほどある。少なくとも今の政府よりは真摯に語ってくれるだろう。わくわくするな。

ところでその宇宙人ってのは何者なんだろう。昔の人たちをそそのかしてピラミッドを建てさせた動機は愉快犯で片づけられるとして、そもそも何者なんだろう。

私には生身の宇宙人が銀河の彼方からたまたま古代エジプトにきたあげくドッキリを成功させるためにリピーターになったとは思えない。もっと現実的に考えれば彼らはやっぱり地球人だ。グレイも爬虫類型も昆虫型も地球人によく似ている。UFOから降りて歩いているところも目撃されているらしい。普通に地球を歩くならやっぱり地球人だろう。

恐竜の時代は2億年も続いたという。その間に文明を築かなかったことはありえない。どうしたってよりよく生きる工夫をすれば文明を持つことになってしまう。虫はアリ程度に留まるが、恐竜のなかには二足歩行して群れてたのがいるらしい。手を自由に使って火を用い、文字を発明して文明を築く種が誕生するだろう。そして科学が発達する。

恐竜文明には億単位の年月があった。われわれの文明はたかだか1万年らしい。人類文明が1億年続いたらどうなるか想像して欲しい。月にも火星にも基地を作り、太陽系の外へ出かけるはずだ。恐竜は地球外文明と交流して銀河の星々へ旅したかもしれない。宇宙人に誘われたら彼らの星にも行きたいだろう。私なら2つ返事だ。『抽選!1000名様18光年銀河の旅ご招待』なんて企画には絶対応募する。恐竜はそれをやったはずだ。

人類にピラミッドを建てさせたのは、宇宙から帰還した恐竜の子孫であろう。恐竜とはいえ恐れることはない。話のわかるいいやつだってことは確かだ。なにせ1万年のドッキリをしかけるぐらいだから。浦島太郎よろしく「1000年ほど留守にしたが、こっちは1億年もたったのか。あんときのモグラが偉くなったもんだ」と、ほ乳類の我々をほほえましく観察しているだろう。古代宇宙飛行士説提唱者がその通りだとは言わないけれど。


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